本日の一人舞台(観客は1名)

見られちゃったの、あたし。
独りで彼を想っているところ。



あたし、好きな人がいたの。
後ろ姿だけ眺めているだけの、淡い純情。
でも体はそれで収まるわけがないじゃない?だってそういうお年頃なんだから。
何度も思い描いたわ。彼の腕に抱かれるあたしを。
決まって彼は最初に荒々しいキスで迎えてくれるの。恥ずかしがるあたしの顎を掴んで、強引に唇が塞がれる。
彼はあたしにたくさん言葉もくれるの。
可愛い。愛してる。離さない。好きだ。
キスの合間に囁かれるだけであたしはめろめろになっちゃう。
「好き、あたしも好き……っ」
服の中に手を入れて、ゆっくりと自分の体を撫で回す。
ちょっとエッチな彼は、あたしがスキなところ全部見抜いちゃってるの。
逃げることも許されないし、あたしも逃げたりなんかしない。
やぁん、下着にまで手を入れちゃうの……?早いよォ、でもあたしのこともっと気持ち良くして……。
するりと下着から足を抜いて、ぬかるんだ入り口をアレがすりすり撫でてるところを想像する。
「んっ、は……欲しい……。入れて、早く、早くぅ……」
だけど、自分の指先がぷつりと体内に埋まる瞬間にそれは起こった。
何故か急に部屋の扉が開いたの。
それはとてもゆっくりに見えた。
凄く驚いて、間抜けなことに足を開いたまま固まるあたしと、無神経に部屋まで足を運んだ男との視線がぶつかる。
その男が、バーダックだった。



馬鹿なの、あたし。
誰にも言わないで、なんて言ったからこんな恥ずかしいことになっているの。
そんなことを言ったせいで今日もまた……。
「こ、こんなの見ても……面白くないでしょ」
「うるせぇ、それは俺が決める」
そんな乱暴な言葉で始まった今日のあたしの一人舞台。
あれから定期的にあたしの部屋に来るようになったバーダック……。
勝手に入ってきたのはあの日ただ一度きり。と、いうと語弊があるかもしれない。
今日だって勝手に入ってきてるには違いないの。
ただ、あたしが家に帰る前に「今日はお前の部屋に行く」っていう通信をしてくるようになっただけで。
どうやったか知らないけど勝手に合鍵まで作って、先にあたしの部屋で寝てたりするの……。
「……じっと見るの……やめて」
お願いしても絶対に聞いてくれないのを知っている。
視線から逃れたくて、あたしが先に顔を逸らすのもいつものこと。
今日は目の前で裸になれっていうから、俯きながら服を脱いだ。
射抜くような視線を感じるけど……それを確かめることは出来なかった。
「下着も脱ぐの……?」
「当然だろ」
この後することを考えれば確かに当然のような気もする。
でも、普段は脱ぐように命令なんかしなかったのに。
きっとただの気紛れなのね。男にはそういうときもあるってことなんだと思う。知らないけど。
無言で下着を取り払い、裸になった。
バーダックも何も言わない。寧ろその方がありがたい気もする。
汚しても大丈夫なようにベッドには大きめの布を敷いて、その上に足を開いて座れば舞台の準備は整ったも同然だった。
「相変わらずスゲェのな。何もしなくてそれかよ」
「……っ」
羞恥心で頬が一気に熱くなる。
見られているのが恥ずかしいっていうのもあるけど、あたしの体が素直すぎて。
気持ちいい行為をすると分かるとこんなにも簡単に濡れてしまうの。
そんな部分を見せているという事実も羞恥心に油を注ぐ。
「じっと、見ないでってば……」
視線から逃れるようにバーダックから顔を逸らす。
こうやって彼の前で自慰を披露するのが、あたしのいつもの一人舞台なのだ。
いつもの通り、そろりと手を足の間に滑り込ませる。
「ん、……っ」
殺したくても押し殺しきれない声が僅かに漏れた。
それは、舞台の最初の台詞のようなものなのかもしれない。
指先を上下に動かしながら、自分で自分を焦らしてみたりする。
何故そんなことをしなければならないかと言うと、イイところに触ると直ぐにイってしまうから……。
「ふ、……ぁ、っ……、ぅ……」
「なァ、誰のこと考えてんだ?いい加減教えろよ」
「……」
言えない。絶対言わない。
あたしが首を横に向けたのを見て、バーダックは不満そうだった。
「別に言いふらしたりするわけじゃねぇ。まあ……好奇心ってやつだ」
「そ、んなの……っ、なおさら、言えない、わよ……」
好奇心で聞きたがるバーダックに彼のことを告げられるわけがない。
こうしている間にもじわじわと指先に愛液が纏わりついてくるこの体が悲しい。
「なあ、仰向けでも出来ンのか?」
「え、……?出来る、けど」
「じゃあ寝ろ」
謎の命令に疑問を込めて視線を投げてみたけれど、早くしろとばかりに顎をしゃくられるだけで返答はなかった。
どういうことなんだろう。仕方がないのであたしは真後ろに倒れる。
そうしたら、急にベッドのマットレスが沈んだの。
何故か分かる?
バーダックがあたしに覆い被さってきたのよ。
「な、何……?」
「俺もする」
「はぁ……?」
「オカズになれっつってんだ」
い、意味が分からない……。というか今まで何もしてこなかったじゃない。
どぎまぎするあたしの真上で服をごそごそしだすバーダックに凄く焦る。
「ちょっ、……」
「ビビんなよ。犯しやしねえ」
そういう問題じゃないんだけど……。
でも、バーダックの声が妙に掠れて色っぽくて……あたしは自分の指先がはしたなく濡れるのを感じてた。
流石に取り出された男性器を直視なんか出来なくて、目を逸らし続けているけれど……。
バーダックにのしかかられながら自慰をするなんて何て状況なの……。
「続けろよ。どうせなら腰が抜けるほどエロい声で啼いてくれて良いんだぜ」
「ば、っかじゃない……」
嗚呼でもどうしよう。
凄くいやらしい気持ちになってるあたしがいる。
一層ぬかるんでしまったそこに浅く指先を埋め込んだ。
「は……っ、は……」
息が少し荒くなる。
浅いところを何度も出し入れすると、お腹の奥が切なくてきゅうっと疼く感覚が生まれ始めるの。
堪らない気分で膝を擦り合わせちゃう。
この奥で脳内の彼を受け入れたら馬鹿になるくらい気持ち良くなるんだろうな……。
「はっ、はっ……ああぁぁ……ああ……」
自然に背中がしなっちゃう。
一番感じるところに触るのはぐっと我慢して、自分の指先を更に深く埋め込んだ。
「はー……柔らけえ……」
そう呟いてバーダックは先端をあたしのお腹に押し付けたりしてる。
エッチな声に思わず視線を向けてしまった。
やだ、凄く熱い……。赤く充血したそれは固いのに不思議な弾力がある。
滲んだ粘液があたしのお腹に擦り付けられて糸を引いてるのが見えた。
「やっ、押し付けないでよォ……」
「ちょっとくらい良いだろ」
あたしが嫌がると、バーダックはニヤニヤしていやらしくアレを揺すって見せる。
「見せなくていいから……!早く終わらせてよ……」
慌てて視線を逸らしたけど、セックスってアレをあたしの中に入れるってことなのよね……。
内股がきゅうんと震える。
指で広げる時に不思議な快感を覚えることは知っているけれど、あんな太いものが入ってくるなんて……想像するだけであたし……イきそう……。
「ね、バー、ダック……あたし、もう……」
「お前いつも早いよな。……もう少し待て」
「そんっ、な……、んンっ……早く、早くイってよォ……」
にゅちにゅちと粘液を捏ねるみたいな音がする。
多分、何度も擦り付けているあたしのお腹の上に出す気なんだと思う。
はー……脳が溶けちゃいそうだよォ。
バーダックの凄く熱い……エッチな感触。
「あん、あぁ……ね、まだ?早くゥ……」
爪先が痺れたように震えてる。あたしもうイきたくて仕方ないの。我慢するの辛いよお……。
あああ気持ち良い……っ、もういい?イってもいい?奥がきゅうんってなって切ない……っ。
「むり、もう、だめイく……っ、イっく!イく!」
ぎゅっと内股に力が籠ってびくんと腰が跳ねた。
爪先から冷たい快感が腰のあたりまで駆け上がってくる。
その直後、びくびくと体を震わせるあたしのお腹の上に、じゅわっと熱が飛び散る感覚を覚えた。
薄ら目を開けると、目を細めたバーダックが荒い息を吐いていて……。
「はァっ……早ぇぞ…………」
不機嫌そうに眉を顰めるバーダックは今まで見たことがないくらいやらしい顔をしてた。
……どうしよう、ちょっと忘れられないかもしれない。




あの日あの時。
見られちゃったの、あたし。
独りで彼を……バーダックを想っているところ。
まさか本人に見られちゃうなんてあたしってば本当に間抜けなんだから。最中に名前呼ばなくてほんとに良かった。
でも、誰にも言わないでって懇願するあたしを彼が脅し始めたのは嬉しい誤算だったわね。
好きな人に意地の悪いことされるのって気持ち良い。
多分彼はあたしのことなんとも思ってないからこのままずるずる関係を続けていたい。
普段は指一本触れてこないバーダックがあたしの圧し掛かるなんて初めてのこと。
何だか積極的なのねって思うとすごく興奮しちゃった。
でもね、今思うとちょっと変なのよね。
あの日もあたし確かに鍵をかけた筈だったの。
独りで暮らしている家だし、あの時のバーダックみたいに返事が無いからって勝手に入って来られたら嫌だから……。
扉も窓も壊さずにどうやって入って来たのかなあ。
あたしが帰って来る前に、先に家の中にでもいないと、あのタイミングで部屋のドアを開けられないと思うんだけど……。
ほんとに変な話よね。