修羅待ちのロマンス

助けてほしいと、懇願された。
命だけはと。
せめて妻と子供だけでもと。
嗚呼、つまらない話だ。
惑星の地上げは交渉など必要としない。
何故なら、基本的に惑星の所有者というものが概念以外に存在しないからだ。
寧ろそれが存在した方が早く楽に終わるかもしれないが、生憎と戦闘民族のサイヤ人は交渉よりも手が先に出てしまう。
存在しようがしまいが、結果に違いはないのではなかろうか。
今回はラディッツ含め、たった二人での制圧だったから意外に時間がかかってしまった。
事前情報では惑星の先住民は然程戦闘力が高くないので若手二人でも十分であろうと言われたのだが……。
ラディッツは地面に平伏する獲物に目を向ける。
そこには今から命を落とそうとしている生き物と、ばらばらに散らばった細い岩が散らばっていた。
消え入りそうな声で命乞いを繰り返す相手に、ラディッツは表情一つ変えない。
「くだらねぇことを言いやがる」
重ね重ね、命乞いなどつまらないことだ。
2,3発の気弾で絶命した先住民を蹴り飛ばした後で、ラディッツは辺りを見渡した。
妻と子供の命乞いをしたということは、残党が存在する可能性の示唆でもある。
連れ合いだろうが子孫だろうが仕留め損ねると厄介だ。成長して仇討ちに来る場合もある。
面倒の芽は早めに摘み取るに限る、とラディッツは最近考えるようになっていた。
昔はそんなこと気にも留めず適当に制圧して、几帳面な仲間から『もっときちんと殺せよ』と言われたりもしていたのだが。
この意識改革はごく最近になって行われた。そこには立役者が一人いる。
尤も、その人物が何かを指導しただとか、命令をしただとか、そういうことが行われたわけではなかった。
もっと簡単な、そう単純な話だ。
ラディッツが辺りを見回していると、スカウターが小さな警告音を出した。
その方向に視線を投げると一人のサイヤ人が姿を見せる。
「ラディッツ、親を見なかった?さっき雛鳥を始末したんだけど……」
「親ならお前の足元だ」
「やだ、危ない。ブーツ汚すところだった……。これで全滅かな?そろそろ帰れそう?」
「……いや、……、ガキと一緒に母親はいなかったのか」
「母親?うーん……子供だけだったと思う……二人いたけど体格差全然なかったよ」
「と、なると何処かに母親がいるな。俺が始末したのは父親だけだ。母親を追うぞ」
「はいはい。これでやっとこの惑星も終わりだね」
は頷くと地面を蹴って空へ駆け上がった。ラディッツもそれを追う。
このというサイヤ人が、ラディッツの意識改革の立役者その人だった。
彼女がラディッツにしたことはたった二つ。ラディッツの求婚を受け入れて彼と祝言を挙げたこと。これだけ。
しかし守るべきものの存在がぐっと身近になったことで、ラディッツの意識が僅かずつ変わっていったのだ。
今までであれば仮に命を狙われたとしても、自分がその責任を負えば良かった。極端な話、実の肉親に矛先が向いても、父親や弟ならば自身らで何とか出来るだろうとさえ思っていた。
だが自分が取りこぼした獲物がを狙ったとしたらどうだろう。
が自分のせいで怪我をしたら、消えない傷を負ったら、……最悪、命を失ってしまったら。
そんなことは許されない。は既にラディッツの中で誰にも譲れない宝物になっているのだ。
愛しい愛しい妻を危険から未然に防ぐのも夫の務めだと思うのである。
故に、残党になる可能性のある母親は見つけて始末しておきたい。
宇宙は広い。二度目の遭遇などはもしかしたら一生ないかもしれないが、それは100%の話ではなく。加えて言えば、この惑星の先住民はスカウターに表示される戦闘力では判断することが出来ない不思議な力を使うのである。
ラディッツの脳裏に、先程命乞いをした先住民の姿が思い出される。やや梃子摺らされたなと感じるくらいには抵抗された。
逃げ出した母親も、恐らくは同じように反撃の牙を砥いでいるに違いない。
子を殺された母親がどんな化け物に豹変するのかを想像出来ない程馬鹿ではないつもりだった。
その恨みの矛先は夫を始末したラディッツよりも、実際に子を手に掛けたに向く可能性が高いと思う。
「おい、先に行き過ぎるなよ。多分狙われるとしたらお前だからな」
「アハ、心配してくれてるの?だいじょーぶだよ、あたしラディッツより戦闘力高いもん」
「嘘吐け!それは子供の頃の話だろうがっ!」
「んっふふ、そうだねぇ」
目を細めるの悪戯っぽいニヤけた笑み。
「あたしが、あたしより弱い男の子とは結婚しないって言ったから強くなってくれたんだもんねぇ。今では頼もしいあたしの旦那様だもんね!」
「だ……っ、な、何をつまらんことを……!」
歯切れ悪く視線を逸らすラディッツをニヤニヤと見つめながら、はおもむろにスカウターに触れる。
「ね、久しぶりに競争しない?」
「何だ、いきなり」
「折角二人きりで遠征なんだしさ、ちょっと遊ぼうよ。勝った方が負けた方に帰った後スキなこと出来るってどう?」
「ハァ……?お前が俺に勝てると思ってるのか……?」
「戦闘力では旦那様に敵わないかもしれないけど、勝負ってやってみなきゃ分かんないじゃない?」
ねえ、と可愛らしい小さな唇が綺麗な弧を描く。
妖しく細められる視線もラディッツの頬の上を撫でていくようだった。
幼い頃からずっと一緒に育って、サイヤ人の雌らしく勝気で、なのに可愛いところもあって、時々恥ずかしそうに微笑んで愛の言葉をくれたりする
伴侶という立場になってもそういう部分は全く変わらない。
遠征中はお互いに余りそういうことをしないのが二人の暗黙のルールになっているのだが、お陰様でそういうご褒美付きの勝負なら大歓迎である。
不利な条件であろうが何だろうが言い出したのはだから罪悪感に苛まれる心配もない。
妖艶に微笑むの態度に、ラディッツはごくりと喉を鳴らした。
「……良いだろう。俺様を挑発しやがって。足腰立たなくして後悔させてやるぞ」
「あははっ、それあたしの台詞だから!じゃあお先にっ!」
ラディッツが了承するやいなや、は風のように飛び出した。
どうやらスカウターを触っていたのは会話をしつつ獲物を探していたらしい。
「なっ……!ま、待て……!!」
フライングは卑怯だぞ!とか何とか叫ぶ声が後ろから聞こえるがは気に留めない。
索敵範囲を広範囲に拡大したスカウターは既に獲物をマークしている。
そう、勝負はやってみなければ分からない。相手より不利な立場であるのなら、頭を使って出し抜かなければ。
獲物との距離がぐんぐん近くなっていく。
と、同時にラディッツが距離を詰めてくるのも分かった。流石に早い。
恐らく向こうも既に獲物を見つけたのだろう。
不意に真後ろが僅かに光った。
それが何であるかを確認する暇もなく、ラディッツが放ったと思われる気弾が、の髪を掠めて真下へと撃ち落とされる。
「ちょっと、髪焦げたじゃないの!あたしに当たったらどうするつもりよ!」
「そんな下手こくかよ!お前も早くしねぇと俺の勝ちだぜ!!」
更に立て続けにラディッツは気弾を放った。
眼下では獲物が隠れているらしい辺りにいくつもの小さな爆発が起こっている。
しかしまだ獲物のマークは消えていない。
つまりまだ仕留めきれてはいないということだ。
「相変わらず雑っていうかガサツっていうか……こんな高いとこからあんな小さな的にピンポイントで当たるわけないじゃない。連打して視界悪くするの止めて欲しいんですけどォ」
爆風で巻き上げられた土煙で景色が霞んで見える。
スカウターにマーキングされた獲物とまあまあの距離を離しては地面の上に降りた。
ラディッツも続く。
「いちいちうるさいぞ。ならお前はどうするつもりだったんだ」
「教えなぁい。っていうか何でついて来るの?作戦?」
「教えない」
ついて行くのは勿論恨みを一番買っているであろうを守るためだ。
不思議な力を使う先住民達は野生の勘のようなもので生体エネルギーを感知する。
スカウターよりはずっと範囲は狭いものの、あまり近付くと察知されてしまうのである。
不用意にが近付きすぎないように様子を見ていなければ。
への攻撃など許せるはずがない。傍にいて必ず無傷で守りきると決めている。
……などとは、彼女に口が裂けても言えないし、ついでに傍にいれば獲物が勝手に動くであろうという下心もしっかりとあった。
要はを守りながら先んじて仕留めれば良いというわけだ。
「固まってたら勝負にならなくない?」
「邪魔だとでも言いたいのか?勝負なのだから邪魔をしても構わんだろうが」
「別に邪魔ってわけじゃないけど……」
実際彼女がどのように動こうとしているのかはラディッツには全く分からないものの、邪魔と言われても傍を離れるつもりはないのである。
既に獲物の場所は割れているのだし、このままと一緒にじりじりと近づいて、美味しいところだけを持っていけるかもしれない。
ラディッツの方が空を飛ぶのも速く、通常戦闘の攻撃力ならば断然上だった。こんな間近で競り合ったならばどこに負ける要素があろうか。
「ねぇ、何があっても近くにいるつもり?」
「どうだろうな」
「良いわよ。どうせラディッツにはこれの真似は出来ないんだしね」
言うなりは掌を胸の前に差し出して、何かを受け取るような姿勢になった。
何のつもりだと眺めていると、ふわふわとその掌の上に気が集まり始めているのがスカウター越しに見て取れる。
「カカロットがね、教えてくれたのよ。あたし、体術は下手かもしれないけど、気の保有量だけは自信あるからさあ。まあまあ凄いでしょ?」
既に視認出来るほどにの掌の中には気がぐんぐん溜っている。
教えてくれた本人とは少々型が違うのだが、何回か試してこれが一番やりやすかったのでこの方法を採用した。
しかしそれを見たラディッツは顔色が変わる。
「っ、おい馬鹿!それはダメだ、止めろ!」
「今更慌てたって遅いですゥ」
「違う!俺が言っているのは……!」
ラディッツが言い終わるよりも早く、ヒュゥン……と何かが空間を切り裂く音が聞こえた。
視界の端に入ったそれを、ラディッツは反射的に叩き落とす。
それは鋭く研がれた細い岩だった。先程ラディッツに命乞いをしていた奴の周りに散らばっていたものと同じ形である。
弓に近いが、遠征時に時折見かける木の弓よりも遥かに丈夫に作成された代物だった。
この惑星に住まう先住民達は、サイヤ人のように気(=生体エネルギー)を指先や掌のような末端から放出することが出来ない代わりに、生体エネルギーを込めた無機物を自在に操るらしかった。
そして察知した生体エネルギーが集中する場所にこれを撃ち込んでくるのである。
普段は主に狩猟に利用しているらしかったが、外敵対策としてもそれなりに使える能力と言える。
「ここいらの奴はエネルギーを感知して反撃してくるんだっ!気なんか溜め込んだら狙ってくれと言っているようなものだぞ!!」
「あれっ、感知範囲の外のつもりだったんだけどなあ」
「阿呆っ!それは通常時の場合だろうが!過剰に気を溜めたらバレるに決まっている!これだからお前を一人に出来んのだっ!!」
言っている間にも鋭い岩が間髪入れずに飛んでくる。
結局エネルギーチャージを止めないを狙って飛んでくる岩を叩き落とすことに専念させられるラディッツ。
獲物は文字通り牙を砥ぎ澄まし、侵略者の到着を待っていたのである。
「ねぇ、前に立たないでよ。流石に旦那様ごと撃てないんだけど」
「お、ま、え、は……っ、誰のせいだと思ってる、誰のせいだと……っ」
「飛んでくる岩も一緒に潰せるから大丈夫だって……。早くどいて、よ……。あたし、まだこれ、カカロットみたいに溜め込むの、上手じゃないんだから……っ」
膨大に溜め込まれたそれが彼女の掌からふわ、と僅かに浮き上がるのが見えた。
を見るとその状態はあまり本意ではないらしく、眉を寄せて少し苦しげな顔をしている。
「もうちょっと我慢……もうちょっと我慢……」
何やら自分に言い聞かせているような台詞が恐ろしい。
ここにきて漸く彼女の意図を理解したのだが、どうやらは遠距離から逃げ場が無いほどの大きさの気弾を撃ち込むことで勝負を決めようとしていたのだ。
確実と言えば確実かもしれないが、その計画を立てる前に是非とも彼らの特性をじっくりと鑑みて欲しかった。切実に。(ラディッツにだってほどの規模ではないにせよ、似たようなことが出来ないでもない。しかしその作戦を採用しなかった理由は明白である)
「ラディッツ、もう無理、避けて……っ!」
「クソ、っ……!」
留めておくのが難しい程の気の塊を集めるの切羽詰まった声に急かされ、仕方がなくラディッツは瞬間的に溜めた気弾で周囲を軽く薙ぐ。
一掃、とまではいかないまでも、の致命傷になりそうなものは粉砕出来たはずだ。
同線上からラディッツが退避したのを見届けて、はエネルギーを保つ腕を一瞬後ろに引き、押し出すようにして解き放つ。
「……これは……」
普段の彼女が放つ気弾とは比べ物にならないエネルギー量である。
たっぷりと時間をかけて溜め込まれただけあって威力も速さも申し分ない。
彼女の宣言通り周囲の岩を打ち砕くに飽き足らず、地表を削り、木々をへし折り、辺りは閃光で包まれた。
ラディッツは言葉を失い、ただただ彗星のようにたなびくエネルギーを眺めているのみである。
その閃光が終息するころ、中心に立つは薄れゆく光の中で満足げにスカウターに手を伸ばす。
「ふーっ…実践では初めて使う割には良かったんじゃない?あたしの勝ちね!」
スカウターのマーキングが消失したことを確認し、んっふっふ、とニヤニヤする
その『勝ち』には結果的にラディッツの助けも十二分に含まれていると思うのだが……そこら辺はあまり深く考えてはいないようである。
敵に無理矢理塩を送らされたというかぶんどられたというか、とにかくそんな立場のラディッツは舌打ちをし、死体を確認しようと地面を蹴った。それを確認せねば勝負は終わらない。もそれに続く。
マークが消えてしまったので探す手間が多少かかるかと思ったが、細かい岩が散乱する場所で、それは呆気なく見つかった。
撒き散らされた血肉や、破損した周囲の状況などから直撃したかどうかは定かではないものの、逃げ切るには至らなかったのであろう。
原形を留めつつも、無惨に横たわった死骸に二人で近づく。
「お仕事終了、かな!」
「……そうだな」
不本意ながら、今回はに譲ってやることにするか。彼女になら好き勝手に振る舞われるのも悪くはないだろう。お楽しみには違いないのだ。
「前情報より手強かったよね。戦闘力だけで制圧用の人員決めるのちょっと考えて欲しいなあ」
ラディッツ的には可愛い妻と二人きりの制圧任務に何の不満もない。やはり口にはしないが。
「つまらんことを言ってないで終わったなら早く帰るぞ」
「早くってそんなに期待してるのォ?ラディッツのエッチ」
「……」
ラディッツの尻尾が無言で空を切る。
「やぁん暴力反対!」
打たれる前に逃げ出そうと、足取りも軽くが地面を蹴った瞬間、スカウターが警告音を発した。
弾かれたようにラディッツは先住民の残骸に目を向ける。
殆ど肉の塊になったと思しきその指先が僅かに動いたように見えたが、確かめる前に耳に入ってきた微かな風切り音に戦慄する。飛び上がろうとした瞬間を狙われたため、の反応が一瞬遅れたのである。
砥ぎ澄まされた鋭利な先端が、を貫こうとしていた。
……っ!!」
辛うじて掴んだ腕を力任せに引っ張って腕の中に抱き込んだ。
庇うように胸の中に抱き寄せた瞬間、肘の辺りに痛みが走る。どうやら避けきれずに掠めたらしい。
「死にぞこないが……!」
寸でのところで防げたことに安堵しつつ、ラディッツは振り上げた手から立て続けに気弾を撃つ。一撃でスカウターの反応がなくなったのは分かったのだが、を狙った罪は重い。
気の済むまで気弾を撃った後で、ラディッツは腕の中に隠したに視線を落とした。
……嗚呼、彼女が無事で良かった。
腕を掠めた岩を視線で追うと、少し離れた場所の木にぶつかって落ちたようだ。丁度の胸の高さくらいの位置にそれらしい衝突跡が出来ている。
彼女は全くそれに気付いてはいないようだが、ラディッツは心底ゾッとした。
「な、何で……?マーク消えてたのに……」
「大方お前の気弾を浴びて一瞬気絶でもしたんだろうよ。瀕死になりながらもやっぱりお前を狙いやがったな」
「嘘……じゃあ勝負は……」
「止めを刺したのは俺だぞ。勿論俺の勝ちだ」
今度はラディッツがニヤニヤする番である。
少し待ってもう一度残骸に近づいた。今度こそ肉の塊となったそれに。
は唇を尖らせながら覗き込んでいたが、やはり完全に絶命したと分かると頭を掻きながら溜息を吐く。
「ちぇー、勝ったと思ったのになあ」
「甘いな。そう簡単に譲れるか」
それでなくても美味しいご褒美付きだというのに。
一度は諦めた勝負だったが、幸運の女神というものは気紛れに微笑んでくれるらしい。
帰還後はたっぷり楽しめそうだ。罪悪感なくを好き勝手出来る機会もそうはない。自分の上で奔放に振る舞う彼女は間違いなく最高に違いないが、自分の下で恥ずかしそうに震える彼女は格別だと思う。
正真正銘無人となってしまった惑星の空を二人で並んで飛びながら、ラディッツは一つ疑問を口にした。
「おい、何故空の上からさっきの技をやらなかったんだ」
ある程度の目測がついたならば、ラディッツが行ったように細かい気弾を撃つよりも、逃げ場がないほどの大きな気弾を撃つ方が間違いなく成功率が上がる。
ついでに膨らんだ気を感知されるかもしれないと思い至らなかったとしても反撃は殆ど食わなかっただろう。そこに気付かないではないだろうに。
「だってあんまり地表壊したらあたし達の評価が下がるじゃない。遊びの勝負とお仕事とどっちが大切かって考えたらさあ……」
「……」
成る程、最愛の妻は意外とリアリストでちゃっかりしている。
けれど。
「それで負けてりゃ世話無いな」
「くううう、スカウターのマーク消えたら終わったって思うでしょ!」
言えはしないが悔しそうに顔を顰める様子がまた可愛い。
堪らない気分になって傍に寄り、やんわりと腰を抱き寄せたら軽く振り払われてしまった。
「だぁめ。帰るまでが遠征でーす!お楽しみはお仕事が終わってからね」
負けた腹いせだろうか、意地の悪いことを言う。
嗚呼、久しぶりに帰路が長く感じられそうだ。このまま暫く別々に移動しなければならないなんて、拷問もいいところではないだろうか。



、もう待てんぞ……っ!今すぐめちゃくちゃに犯してやるっ」
帰り着いた直後、ラディッツは豹変した。
いや、きっと自分が勝っていたなら、もこんな風になったかもしれない。
慌ただしく家の中に連れ込まれたかと思うと、扉を背にしてラディッツに唇を押し付けられていた。
「んっんっ……は、んは……っ、は、ふ、ぅうン……っ」
性急に滑り込んできた舌先を味わうようにやんわりしゃぶる。
口の中で擦り合わせて、唾液を啜って。
くちゅくちゅと水音を立てながら何度も角度を変えて貪られた。
久しぶりの深いキスに眩暈さえ感じ、足が震えてくる。立っていられなくて、ずず……と、背中で扉を伝う。
最後にちゅるる、と舌先を引っ張るように吸われた後、一瞬離れたラディッツに下唇を食まれた。
「あふ、もォ……咬まないでよ……」
批判的に睨みつけてみたりするが、ラディッツはの戦闘服を脱がせるのに忙しく、全く見ていない。
「あん、待って待って……。先にお風呂入ろ?あたし達、水浴びしかしてないじゃない」
「馬鹿だな、これがイイんだろうが」
のインナーを捲り上げながら、ラディッツは彼女の耳元に顔を埋めた。
鼻先を押し付けてすんすんと匂いを嗅いでいる。
「はっ、堪ンねぇ……エロい匂いさせやがる……」
「やだぁ、変態……っ。あ、待ってよぉ。あぁん耳ダメ……っ」
そのままぬるりと耳朶を口に含んだ。
舌先で弄びながら胸の膨らみを掴む。
「あんっ、ラディ、ツ……っ」
柔らかな胸を軽く押しつぶし、捏ねるように揉みしだくと伏し目がちな睫毛の先が健気に震える。
目に見えての反応が良くなった。抵抗するためにラディッツの腕を掴んだ手にも力が籠もってくる。縋られているようで非常に気分が良い。
ラディッツの舌先が耳の輪郭をゆっくりなぞった。
「んっ……んン……くすぐった、……」
同時に荒い呼吸が吹き込まれる。ラディッツが自身に興奮しているのだと思うとの腰も重苦しく疼いた。
無意識に膝を擦り合わせてしまう。
それに気付いたラディッツはいきなりこんなことを言い出した。
、自分でやれ」
「は、っ?な、何を……」
「自分で触れと言っている……。俺のスキにして良いんだろ」
言いながらラディッツはのアンダースーツを下穿きごと引き下ろした。
既にじっとりと湿っており、は思わず顔を逸らして俯いた。
「うわ、糸まで引いてやがる……」
「ばかばか……!!いきなり何するのよォ!」
「うるさいぞ、良いから早くしろ。勝った俺様の命令が聞けねえってのか」
確かにその通り。負けた方に自由などないのである。
「あんまり……見ないで……」
羞恥心に駆られながらも、彼の命令は絶対だった。遠慮がちに手を滑り込ませてぬかるみに触れる。
指先が熱い粘膜にぐずりと沈んで思わずびくんと肩を震わせたら、更に命令が飛んできた。
「足を閉じるな。俺に見えるようにやれ」
「はァっ、……い、意地悪ぅ……っ」
下唇を噛んで、おずおずと足を開く。
でも本当はこうやってラディッツの良いようにされるのも好きなのだ。恥ずかしい気持ちも本物だけれど、ラディッツに求められていると思うと体内がくうっと切なくなる。
「んっんっ……あ、あっあっ……あ、だめ、はぁはぁはぁっ、気持ちいっ……」
扉に背中を預けて、ラディッツの視線から逃げるように首を横に逸らす。
ぬるつく指先から伝わる感触に、はしたなさを覚えて顔が熱くなった。
「良い眺めだなァ、
にこんな命令を出したラディッツは、の痴態を眺めながら戦闘服を脱いでいる。
揶揄する言葉に反論も出来ず、浅い呼吸を繰り返していると、身軽になったラディッツが覆い被さってきた。
「勝手にイくんじゃねえぞ……」
熱の籠った吐息交じりで言いながら、掬い上げたの胸にかぶりついた。
「んんんっ……!」
いきなりしゃぶりつかれては背中をしならせる。足の間が震えて戦慄く。
ちゅっちゅ、と小さな音が響いた。何度も軽く吸い上げられては離し……を繰り返されている。
「あぁ、あ、くすぐったい、って……」
いやいやと首を振って抵抗の意思を示してみても、ラディッツは愛撫を止めない。
それどころか更に深くかぶりついて、舌で乳首をねろねろと捏ね回す。
敏感に膨らんだ先端が意地悪く弾かれると、は素直に背中をしならせた。
「は、むり、こんな……っ。イきそ、あ、イく、イくっ……」
こんなの耐えられない。
腰が勝手に跳ねて絶頂しようとしている。ぞぞぞっと爪先にまで痺れが走った。
ああああイくイく、だめ、イくむり、がまんできないイくイくイ……っ。
「イかせねえっての」
正に今絶頂に駆け上ろうとしている腰が僅かに浮いた瞬間、ラディッツはの手首を掴み、動きを止めてしまった。
「はっ、はっ、うそ……」
焦点の合わない視線をラディッツに向ける。
自分でやれと命令してきたくせに直前で止めるなんて酷いにも程があるんじゃないだろうか。
半端なところで刺激を失った膣壁が脈打つ。重苦しくて切なくて涙が滲んだ。
しかし何故と口にはしない。今日の主導権はラディッツにある。勝者がすべてを総取りすることは当たり前だ。
だけど批判的な視線で見つめるくらいは許してほしい。欲求不満が下腹の奥に澱のように溜まっていて酷く疼くのだから。
「……何だその目は。イかせて欲しくて堪らないって顔だな」
ニヤニヤしながらラディッツは、掴んだの手を自身の口元へ導く。
そのまま愛液に濡れる指先を躊躇いもなく口に含んだ。
「ひゃっ、……」
口内に含まれた指先にラディッツの舌の感触が伝わる。暖かくて、柔い滑ったそれ。
ねっとりとしたラディッツの舌が神経の集中する指先を丁寧に舐めしゃぶった。
「ん、ンン……ら、ラディッツ……」
指の腹をくすぐって、関節まで含み軽く吸う。身じろぐように指を動かしたら、舌の感触をリアルに感じてしまった。
ざらりとしていて別の生き物のように蠢いている。
ぬるん、との指をすり抜けたそれは細い指を伝って指の股までねろねろと這う。
普段から外の刺激に慣れていない部分を舐められて、はくすぐったさと同時に淡い性感を覚えた。じゅわ、と足の間から愛液が染み出してしまう。
ついでにラディッツの薄い唇の隙間から舌先が覗くのを見ると言いしれない興奮を覚えてムラっとまでする。
じわじわと物足りなさや欲求が溜まっていくのを感じていたら、不意に口から指を離したラディッツが。
「全く足りんな……」
と、呟いた。
「え、何が……っ、きゃあ……!」
直後、いきなりラディッツによっては足を抱えられてしまう。
扉に背を押し付けたまま足を持ち上げられて、左右に割り開かれた。
「やだちょっと!こんな格好……っ!」
太股を押さえ込まれ、ラディッツの目の前に足の間を曝け出す格好で固定される。
先程まで自分で宥めていた粘膜はじっとり充血して愛液に濡れており、じっと見られるのは流石に恥ずかしい。
しかしが羞恥を感じている暇もそこそこに、ラディッツが足の間に顔を埋めてきた。
無遠慮に突っ込まれた鼻先が触れるだけで爪先まで痺れる気がするのに。
ぺちゃ、とぬるつくいやらしい感触に肌が一気に粟立った。
「やあっ、ああっ、あっ、あっ、あぁん、だめ、ラディ、……うぅぅん……っ」
つるりとした内側をなぞって愛液の滲む入り口に舌先が到達する。
やんわりと襞を掻き分ければ、ラディッツの口内にの味がたっぷりと溢れた。
「はぁっはぁっ、……ああ、すげえ……垂れるほど濡らしやがって……」
ぢゅぢゅぢゅ、と音を立てて愛液を啜りあげる音が響き、は思わず手で顔を覆う。
だって仕方がないのだ。
遠征時は衛生面や安全面、そして体力面も考慮して基本的にセックスはしないと暗黙のルールが出来上がっている。
今回のように二人きりで遠征ということも殆どないから、我慢らしい我慢を感じることも少ないのだが……。
今回は日程半ばの野営時に、ラディッツの傍に寝そべりながら彼の寝顔を見ている時にどうしようもなくムラっとした。二人きりなのに……と思っていた。
最終日に勝負事を持ち掛けたのだって、もう渇望に耐え切れなくて……。
「は、ラディッツぅ……ああぁ、感じるよォ……っ、イかせてっ、イかせてっ……!」
強請るように何度も腰を浮かせながら、はラディッツの髪に指先を絡める。
波打つ体内。内股に力が籠もって、白い喉が仰け反った。
………なのに。
ちゅる、と小さな音を立ててラディッツは舌先を離してしまった。
「うえぇ、なんでぇ……止めちゃヤダぁ……」
またしても直前で止められてしまい、今度は滲むのではなく涙が零れた。もう頭の中は気持ちよくなることしか考えられない。
戦慄く体内は涎を垂らしっぱなしだ。
「こんなもんでイかせるか。俺でイけ、俺で」
言うなり、膝立ちになったラディッツが腰を押し付けてきた。
足の間に熱の塊を感じては息を飲む。
しかしそれも一瞬のこと、浅い呼吸で胸を上下させながら視線を落としその瞬間を目で追いかける。
「いくぜ………」
ぐぶ、と先端が体内にめり込んだ。
「んンっ……!」
ぐずぐずに蕩けたの体内はいともすんなりラディッツの男性器を受け入れる。
狭い膣壁を広げるように擦られる感覚にゾクゾク腰が震えた。
「ああっ、ラディ、っうぅン……、これだけでイきそ……っ」
「もうちょっと待て……っ」
何度も腰を突き出してぐっぐっと深く押し込められると、先端がぐりぐり体内深く当たってしまう。
子宮口をノックされたは声を出すことも出来ず目を見開いて背中を反らした。
「はーっ、……キツいな……、久し振りだからか……?堪らねえ……」
深く嘆息したラディッツは目を細めてを見下ろしている。
緩やかに腰を揺すれば、胸を差し出すように何度も背中をしならせるが確認できるのだ。
柔らかそうに震える胸をやんわりと掴む。
「ひあ、むねだめ、あああ、それかんじすぎるからやめてぇ……」
止めてと言われて止められるわけがない。
繋がったままでの乳首をきゅううううっときつく抓み上げてやった。
「あうううっ、はぁっ、むり……っ、それつよいぃぃ……っ」
は目尻に薄らと生理的な涙を浮かべて、膝でラディッツの腰を挟み込んだ。体内の深くがじぃんと熱い。
やや乱暴な刺激できゅうきゅう締まる感触に触発されて、ラディッツがゆっくりと腰を引く。
「あっ、待って、だめぇ、いま突かれたら死んじゃうよォ……」
「るせぇ、暫く遠征で禁欲してたんだぞ……、もう我慢出来るかよ……っ」
覆い被さってくるラディッツを見上げた時、交わった視線の先にケダモノを見た。
ギリギリまで抜かれた男性器が強引に思い切り押し込まれる。
「────ッ!!」
一瞬で意識が飛びそうなほどの快感がの脳内を突き抜けた。
声も出なければ呼吸すら出来ない。
しかしラディッツはそんなに構うことなく荒い呼吸で腰を振る。
腰を抱き寄せ、首筋に甘く噛み付き、密着した体をぶつけてきた。
「こ、んな、むりっ、もうむり……!あぅっ、イく、イくう!!」
散々寸止めにより焦らされてきたの体は、とても敏感になっていて、たやすく快感を拾ってしまう。
欲した快楽に流されるまま、はきゅうううっと波打つ体を跳ねさせた。
「くぅんんんんっ!!!」
ラディッツの体の下でが腰をくねらせてがくがくと体を痙攣させている。
繋がった部分から伝わる感覚も彼女の絶頂をラディッツに教えていた。
「ああクソ、っ!お前だけイきやがって……!そのまま締めてろ!」
腰を押さえつけて更に激しく打ち付けるラディッツ。
「はあっ、あぁっ、激し、……っ、イくの、とまんない……っ!!」
立て続けに攻め立てられて余韻を感じる暇もない。
気付けばより彼を感じるところで受け止めようと、自ら腰を浮かせて強請っていた。
びくっびくっと何度も跳ねては収縮を繰り返す刺激に、ラディッツも追い詰められていく。
「はぁっ、はぁっ……あぁ、ヤベ、俺も……もう……っ」
「んんんぅっ、あったかいの、いっぱいだしてぇ……っ、ラディッツの、っ、ナカにほしいぃっ……!」
ラディッツの首に腕を回して縋りついたが彼の唇をべろりと舐めた。
するとラディッツが奪うように深く唇を重ねてくる。
お互いを掻き抱くようにしながら、ぬちゃぬちゃと唾液を交わらせて、舌先を縺れ合わせる深いキスに脳内が痺れた。
「う、……出、る……っ、はぁっ、出すぞ……っ、う、くうっ……!」
ずんっと一番深いところを貫かれた瞬間、ラディッツが僅かに肩を震わせたのが分かった。同時にどぶりと迸る熱量の感覚が生まれる。
精液が子宮口に叩きつけられる快感にも爪先を震わせた。
「あはぁぁぁっ!はあっ、すごいのォ……!はぁ、ああぁ……射精されてイっちゃったよォ……っ」
きゅんきゅん震える体内の奥でびゅくびゅくと何度も吐き出されているのが分かる。
収まりきらず内股を伝う熱に陶酔感すら湧く思いだ。
イきすぎて焦点が定まらず、ぼんやりしていたら、同じく息を切らせたラディッツが改めて唇を押し付けてきた。
さっきのような深いものではなく、労わるように触れるだけの優しい口づけにはうっとりと目を閉じる。
ちゅ、ちゅ、と小さな音が何度か繰り返された後、ラディッツは体を起こす。
「あぁん……折角中出ししてもらったのにぃ……勿体無い……」
男性器を引き抜かれた時に零れ落ちた滴りを見て、は思わず呟いていた。
種として決して数が多くないサイヤ人の二人は、子供はいつでも構わないと思っていたので普段から特に避妊などもしていない。
「煽るな馬鹿……。そんなに欲しいならもっとくれてやる……」
「……嬉しいけど……ここ玄関先だし、落ち着いたんだったらやっぱ先にお風呂入ろ……?」
どちらかというと分かりやすい愛情表現に今一つ欠ける旦那様に激しく求められてしまったという事実が嬉しくて好きにさせてしまったけれど。
何となく冷静になって今の状況を考えると、物凄く恥ずかしいような。家の前を誰かが通らなかったかと不安も残る。
ラディッツも同じような考えに至ったのだろう。
何となく、ばつの悪そうな表情を浮かべている。



「はっ、はっ……深いよお……っ」
それからしばらくして、浴室ではさっき射精したとは思えない程の質量を咥え込まされたが息も絶え絶えになっていた。
「あーっ、それだめっ……!あっあっ、ぐりぐりしながら、ひっぱっちゃだめぇ……っ」
真後ろから貫かれて、尻尾を思い切り握られると腰が抜けそうになる。
「ハハっ、これがスキなくせに白々しいぜ……!あー……っ、締まる、いいぞ、嗚呼、堪らん……」
毛羽立つ尻尾を掴んだまま、ラディッツがニヤニヤしながらの体内に楔を打ち込んでいる。
「ふああ尻尾やだっ、イくっイくうっ、ああああ出ちゃう……!!」
ぴんと張りつめていた尻尾がぴくっぴくっと可愛らしく跳ねたと思った次の瞬間、は潮を吹きながら絶頂していた。
浴室の床にびしゃびしゃとの雫が滴り落ちる。
「何だ、漏らすほど良かったのか?俺にまで掛けやがって」
「やだぁ……言わないで……」
だって普段より激しいんだもん。
は消え入りそうな声で恨み言を呟きながら両手で顔を覆う。
困ったことにラディッツはまだまだ満足しないらしい。スキにしても良いとは言ったものの次は一体どんな風に犯されてしまうやら……。
嗚呼、次回こそは勝たねばならない。
愛しい愛しい夫を体の全てを使って愛す権利は勝ち取らなければ手に入らない。
彼らのロマンスはいつも修羅の先にある。