良ければご馳走いたします

悟空でお馴染みかもしれないが、サイヤ人は燃費が非常が悪い。
だからこそ地球人から見れば超人的な力が出せるのかもしれないけれど、食事に財布の中身が不安になることもしばしばだ。
サイヤ人=大食漢。
そしてもサイヤ人。つまり大食漢なのだった。
食事風景は正直自分でも辟易する。悟空やベジータ、その他サイヤ人の面々は男性ばかりだから良いかもしれないが、自分は女なのだ。不本意ながら現在確認されているサイヤ人の中では唯一の。(ハーフとクォーターならメス個体も現存するらしいが会ったことはない)
サイヤ人は外見で年齢が分かりづらいが、まだ生まれて20年も経っていない自分には、地球人の女の子の慎ましやかな食事風景に憧れすら抱いてしまう。
いつだったか、初めて地球人のタイムパトローラーの友達と食事をした時のことは恐らく生涯忘れられないと思っている。
普段は老界王神や時の界王神が何かとお世話をしてくれていたので、他人と食事をする機会などにはあまりなかったのだ。
だけどそれは彼らの精一杯の思いやりであったことを、今なら強く理解出来る。
何故なら地球人の彼女が「たくさん食べたわ。お腹いっぱいになっちゃった」と箸を置いた時、はまだ胃袋を二割も満たしてはいなかったからだ。
的にはまだまだ前菜のつもりだったのに、彼女は満腹だと言う。衝撃だった。
全然食べてないじゃない……と、指摘しようか迷って、結局も箸を置くことになる。
待たせるのは気が引けたし、彼女は本当に満足しているようだったのでこれ以上食べるのを勧めるのは何だか間違っている気がしたのだ。
そこで初めて地球人とサイヤ人はただただ尻尾のあるなしによって分かれているわけではなかったのだと思い知る。
帰って時の界王神にその日の出来事を話したら「サイヤ人は燃費が悪すぎるのよ」と言われた。成る程確かに。
そういえば、食事の席でさっさと食べ終わる老界王神や時の界王神と違って、自分とトランクスはずっと食べているような気がする。
それに比べるとあんな食事量で一日のエネルギーを維持できる地球人はとても燃費が良いのだろう。
その日は久しぶりに空腹の極限だったので、夕飯に顔を出していたトランクスより食べた筈だ。皿を重ねるを見てトランクスがこんなことを言ったのを覚えている。
さん、なんか今日たくさん食べますね。普段全然食細いのに」
嫌味か!



「貰いすぎちゃったな……」
重ねて言うがサイヤ人=大食漢。
それを知っている人達が最近食べ物なんかを差し入れしてくれる。
何だかんだ時の界王神に面倒を見てもらっているのは肩身が狭いので凄くありがたい。…のだが、昨日はそれが重なってしまって、大食漢のでも食べきれない量になっていた。
「老界王神様の歴史修正任務始めてから知り合い増えたもんなあ……」
しばらく日持ちのするものは二、三日で頂くとして、足の早そうな生菓子の類がちょっと困っている。
「ブウさんに持っていくのが一番良いんだけど……」
彼(で良いのだろうか?実際の性別は分からないけど)は今、たくさん食べて蓄えたエネルギーで家族を作ろうとしている。
稀にこうやって食材が余った時は、迷わずブウに届けるのが最近のお決まりになっているのだが……。
「ピッコロ先生、甘いもの嫌いかな……」
ふと最近担任になってもらった人物が頭を過る。
少し前までサイヤ人の先生に担任をお願いしていただったが、ピッコロが昔悟飯の先生をしていたと聞いてお願いすることにした。
ハーフとは言えサイヤ人を教えていたというだけはある。
そもそも喧嘩っ早いサイヤ人の先生とは違い、彼は落ち着いていて先生然としているのだ。ものを教えようという気概が感じられる。非常に好印象である。
特に用もなく声を掛けても、世間話くらいには多少応じてくれるし。(これがベジータ先生の場合は無駄口を叩きに来る余裕があるのなら俺の修行に付き合えとか意味の分からない要求をされる。実力拮抗してないから無理です)
つまり控えめに言って大好きな先生なのだった。
ナメック星人を異性と断じて良いものかは分からないが、とにかく男っ気などトランクス以外には無かった
同僚感が抜けないトランクスよりも、ピッコロには大人の余裕のようなものが感じられ、ずっとずっと素敵に見えた。
お菓子のお裾分けなんて会いに行くには絶好の口実だろう。
ただ、そこにロマンスなど期待はしない。ナメック星人は恋愛というものの機微には相当疎いらしく、が敬慕や憧憬の意思をそれなりに言葉に乗せて示そうとも全く響かないようだった。
良いのだ。別にそこはそれでも構わない。
会いに行く口実があるだけで良しとしようではないか。
いそいそと生菓子類を袋に詰めて、は部屋を出て行った。
……筈だったのに。
「先生って……食事しないんですか……?」
まさかナメック星人は食事を摂らないとは。
いや、実際には食事をしないのではなくしなくても水だけで生命維持活動が出来るという話なのだが、自身の食欲という本能にコンプレックスを持つは愕然とする。
「別に食わんとは言っていない。が、お前達が普段食っているようなものは食わん」
「えええええ、そんな!ちょっとでも良いから一緒に食べましょうよ!多く頂きすぎたので助けてくださいよ!!」
ここで追い返されてしまっては何のための口実か。
食べれないというわけではないのなら一緒に食べて頂きたい。是非とも。
「残飯処理なら別に俺でなくとも良かろう。ブウのところにでも行ってやったらどうだ」
「その言い方はくれた人にもあたしにもブウさんにも失礼かと思いますが」
「そうか?」
「もしかしてお腹空いてません?」
「特にはな」
「……そうですか……」
ダメだこれ以上はとりつく島もない。
これはもうブウのところで一緒にお菓子の自棄食いするしか。
サイヤ人の食欲についてきてくれる魔人という存在に今ほど感謝を覚えたことない気がする。ブウさん今日は朝までよろしく頼みます。
腰に巻いていた尻尾も、項垂れるように力なく滑り落ちてしまった。
悲しそうにそれを揺らしながら踵を返した。しかし。
「おい、ちょっと待て」
「……なんですか?」
心なしか髪までしょんぼりしたようなを呼び止めるピッコロの声。
のっそりと首だけで振り返ると、ピッコロがつかつかと歩み寄ってくるではないか。
悲しいかな、今更何の用だ……とは言えず彼の挙動を見守ってしまう。
「普段から気をつけろと言っているだろうが。悪い癖が出ているぞ」
なんと彼は髪だけでなく実際本当にだらんと垂れた尻尾をいきなり握ったのである。
「ひえっ!」
思わず悲鳴を上げてしまった。
尻尾はサイヤ人のとても分かりやすく攻めやすい弱点である。
無論それが分かっている為、サイヤ人はそこを鍛えるのであるが、にはどうしてもその弱点を克服出来ない理由があった。
「あ、あぁ……あ、せんせ、やだァ……」
「嫌なら尻尾の感情表現をもっと抑えろ。何に落ち込んだかは知らんが、お前の悪い癖だ」
罰のつもりなのだろうか。ぎゅむぎゅむと乱暴に握られたは地面に崩れる。
体を保っていられない。
震える手から、菓子入りの袋がばさっと音を立てて地面に落ちた。
「ふあ、あぁん……っ、はあ、はぁあ……、せんせぇ……っ」
「情けない声出しやがって……。修行が足りんぞ……!」
ぎゅうううう!
「ふあああっ!!」
びくっ、との体が地面の上で跳ねた。
内股がぷるぷる震えている。
「せ、先生……あ、あんまり、キツくしないで……」
「キツくなけりゃ修行にならんだろうが。若しくはいっそ悟飯のように切ってしまうか」
物騒な台詞と共に握られた尻尾がいきなりビンッと引っ張られた。
「きゃあ!」
つられて腰が浮く。
「は、あ、だめ、だめですう!ピッコロ、せんせ、っあ、あ、あ、あ!それだめぇ……!」
悲鳴じみた声を出してもピッコロは手を緩めてくれない。
そうこうしているうちに足の間がじゅわりと熱を持ってくる。背筋を駆け抜ける冷たい快感に腰が抜けてしまいそう。
「んんんんっ、だめっ、あっあっ、キちゃうよォ……!」
ぶる、とが震え上がる。
そのまま地面の上で強張らせた体を二度三度跳ねさせた。
「はあっはあっ、せんせ、酷いよォ……こんなところで……」
「修行に酷いも何もないだろうが」
「こんなの修行でも何でもないですよおぉぉ……」
伝わっていない。全く伝わっていない。悲しいほどに伝わっていない……!
今瞬間的にに何が起こり、そして何が終わったのか。
ナメック星人という生物がこれほどまでにヒト科のことをご存じないなんて。
「い、今、先生あたしに何したか分かってますか!?」
「弱点を晒すなと諭したつもりだ。お前はスジが良いのに時々悟飯並みに油断して大技を食らう傾向にある。隙を見せれば手痛いしっぺ返しを食らうということをもっと学ぶべきだろうな」
「たった今学びましたね。嫌というほど」
肩で息をしつつよろよろ立ち上がる。
まさかこんなことになるなんて……。は思わずあたりをきょときょと見渡してしまう。
ピッコロだけに関わらず、全ての先生はいつも屋外にいるのだ。今のみっともない姿を誰かに見られでもしたら憤死しそう。
普段はそれなりに出歩いている人間も多いコントン都だが、今日は幸いこの辺りに人影は無いようだ。良かった、安心した。いや安心してる場合じゃないけど。
「……あたし帰ります」
「そうか。気をつけろよ」
いえ、今以上に気を付けなければならなかった場面などそうそうありません。
などと言うほど気持ちの余裕もなく、は取り落としてしまった袋を拾い上げると、大人しくその場を後にした。
ピッコロも尻尾の指摘をして満足したらしく、無言で彼女を見送った。
コントン都はライセンス無き者の舞空術を禁止している。
故に彼女は転送ロボットのいるところまで徒歩で向かわねばならなかった。彼女らの居住区への転送は泉の前に設置された特殊な転送ロボットのみが引き受けている。
本当は走って逃げ出したいくらいだったけれど、挙動不審な後ろ姿をピッコロに見せるのが嫌だったので我慢した。
ブウのところへ向かう気分すらなくなり、転送装置でタイムパトローラー達の居住区まで送ってもらう。
タイムパトローラーはいつでも人手不足らしい。この居住区も少人数からの集合住宅が何棟か並んでいて、そのうちの一棟にも住んでいるが、両隣は空室だった。
ついでに言うと階下も空室だということだ。
人数が少ないうちは可能な限り他人の生活音から遠ざけてやろうという配慮が見て取れる。
この仕事はある程度以上の戦闘力がないと仕事にならないため、ここがいっぱいになることがあるのだろうかと思うこともしばしばだった。
部屋に戻り、袋を机の上に置いたは真っ先に寝室に移動する。
そしておもむろに布団の中に潜り込み……。
「やばいやばいやばいあり得ない!ピッコロ先生に尻尾でイかされるとかあり得ない!」
その中を転げ回っていた。
もう死ぬほど恥ずかしい。舞空術の途中で気が切れて落下して死にたい。
救いがあるとすれば相手にその自覚がなかったことただ一点だけ。
布団の中で丸く蹲りながらわぁわぁきゃぁきゃぁ声が出てしまう。もう本当に、次にピッコロとどんな顔をして会えばいいのやら。
向こうは勿論何も分かっていない様子だから意識されることはないだろうが、自分が意識してしまうではないか。
尻尾修行の話題に触れられるたび赤面している自身が想像される。
「無理無理無理!死ぬしかない!死ぬ!死ぬう!」
布団の中で敷布をぎゅっと握りしめた。尻尾もびたんびたんとベッドのマットレスを叩いている。
感情表現を抑えろと言われた直後なのにこの体たらく。情けない……。
「……で、でも先生の力加減スゴかった……。あんなにぎちぎち引っ張られたの初めて……。癖になっちゃいそう……」
サイヤ人にとって尻尾は弱点だから、と教えられたのは何時の頃だったか。
まだ刺激に慣れない尻尾を撫でると寒気がするくらい気持ちいいと気付いてしまったのは、多分尻尾の修行をしなさいと老界王神あたりに言われた時だったと思う。
生まれて初めての性的な快楽に若いの体は素直で従順に反応した。
誰に対してかは分からない正体不明の罪悪感というか後ろめたさもあったけれど、結局止めることが出来なかったのである。
が!その結果が今日の大惨事なのであれば、何処かで止めておくべきだった……。
後悔しても遅い。何故なら後悔は先に知ることの出来ない事象だから……ってちょっと難しく言って記憶消そうとしても無理!
もう死にます。明日なんか迎えません。
死にます。
しにます……。
しに、……。
……。
……。



我ながら酷い寝落ちだった……。
深夜に息苦しさで目覚めたは、あのまま眠ってしまったことに思い至りまたしてもショックを受ける結果となった。
嗚呼、普段はもうちょっと品行方正に生きているというのに。
やはりしょんぼりとした気持ちになり、尻尾も垂れ下がったままではあるが、昨日よりは気持ちは落ち着いた気がする。
昨夜スルーしてしまったお風呂にでも入ろう。それから朝ご飯にしよう。
そういえば夕飯を抜いてしまったからすごくお腹が空いた。貰いすぎてしまった差し入れを消化するのに良いかもしれない。
時の界王神様のところで朝ご飯と思ったけれど、ピッコロと顔を合わさないと時の巣に行くことが出来ないからそういう意味でも家で済ませるのが良さそうだ。
まあどうせ任務を受けに行かねばならないのだけれども、ちょっとくらい先延ばしにしたって良いじゃないか。
少し熱めのお湯を張って、ざぶんと身を沈める。そうしたら、少しだけ心が軽くなったような気がするから不思議だった。
リラックスする気持ちが、昨日の惨劇をある程度和らげてくれるのだろうか。
それでも尻尾にはまだ、ピッコロの手の感触が残っているような気がする。あの絶妙な力加減……千切れるかもしれないと本気でドキドキさせられたし、握り込まれた部分は物凄く気持ち良かった。
自分で触るだけでも馬鹿になるくらい気持ち良いと思っていたが、好意を持つ相手にされると脳が蕩けだすかと錯覚するほどだった。
ごくりと、の喉が鳴る。
浴槽から出て、椅子に座り、ボディソープを手に取った。
その泡立てる前のねっとりとした原液を尻尾に擦り付ける。
「っ、!あ、あ……」
時折はこうやって尻尾を洗うついでに自慰に耽っていた。
恋愛など経験がないから、普段は専ら輪郭のぼやけた性的なことを想像をしたりしていたのだが、今日は直に他人に握られたという強烈な記憶がある。
「はあ、はあ、先生、先生、好きぃい……っ、これ、これ凄い、好きっ、はあっ、せんせ、もっとして、あっあっ……」
温かくぬめる泡を塗り広げるように上へ下へ手を上下させる。
本当は根元が一番感じるのだ。故に昨日引っ張られた付け根の部分がじぃんと疼く。
お腹の奥が苦しく切ない。
びく、びく、と断続的に繰り返す収縮の波に誘われるまま、は足の間に手を差し入れた。
「あくうぅ……っ!」
泡やシャワーの水ではないぬるんだ感覚。
ピッコロの指先を想像しながら、ねっとりと絡み付く粘液をやんわりと敏感な突起に擦りつけた。
尻尾を握る手に思わず力が籠もる。
「んうぅっ、こんなのすぐイク……、せんせ、イくっイくっ……!」
彼にされたように、絶頂の瞬間に尻尾をキツく引っ張ってみる。
「─、あっああぁぁ……っ!!」
膝を擦り合わせながらはぶるぶるっと体を震わせた。
瞬間、僅かながら生温い液体がぷしゅ、と勢い良く噴き出しの手を濡らす。
「はっ、はっ、やだぁ……ちょっとだけど出ちゃった……」
まさか自慰で潮を噴くなんて。
物凄く気持ちが良かったのは確かだが、こんな経験は初めてだった。
余韻にぼんやりとしながらも、体を洗い流す。
自慰をしている時よりも、後始末をしている時の方が恥ずかしい気分になるのは何故なのだろう。
しかし、泡だらけのにしてしまった尻尾を洗い流しながら、は思わず呟いていた。
「嗚呼……また先生の手で握られたい……」
今思い出しても最高の瞬間だった。
しかし次に同じ辱めを受けてしまったら……あまつさえ誰かに見られてしまったら、もうお嫁にいけなくなること必至だ。
だめだ、やっぱり余計なことを考えたら後で困ることになる。
ナメック星人が恋愛の機微に疎いどころの話ではないと昨日深く深く理解した。
ピッコロも言っていたではないか。隙を見せれば手痛いしっぺ返しを食らうと。昨日の今日でそれは紛れもない正論だと理解できる。
忘れるのが一番だ。
いつかきっと彼を忘れさせてくれる誰かが現れるはずだから。



、少し良いか」
時の巣に向かっていたに声を掛けてきたのはピッコロだった。
昨日の今日で物凄く気まずい気分ではあったものの、ピッコロにはその気分がないので断るのも気が引ける。
それにやはり大好きな先生に声を掛けられるというのは嬉しいものだ。どちらかというと普段はから一方的に声をかけることが多いから余計に。
「……はい、何ですか?」
僅かに逡巡はしたものの、素直に返事をすると無言で手招きされた。
何だろう。ピッコロがこういうことをするのは非常に珍しい。
ついて行くとピッコロはどうやら転送装置を使うようだ。修行用のシミュレーションの受付にでも行こうというのだろうか。
「あの、先生……?修行でしたら時の界王神様のお仕事が終わってからで……」
「修行ではない。良いからついて来い」
有無を言わせない圧力を感じては黙り込む。
そのままピッコロと一緒に転送された先は、ナメック星人に開放された区画だった。ここは一部のナメック星人達がこぢんまりとした居住地を整備している。
大きな畑なんかも作っているあたり、彼らの適応力の高さを感じてしまったり。
フリーザ軍の面子が駐留している辺りに比べて変な緊張感もなくのどかな雰囲気の区画でもある。
ピッコロはその区画をずんずん先に歩いていき、奥の方にある半球状の建物の前で止まった。
「えっと、ピッコロ先生……?ここは……」
居住地なので似たような建物はそこかしこに建造されている。つまりこの建物は家であると分かる。
故にが知りたいのは、何故ここに連れて来られたのかという理由だが、ピッコロは軽く扉を蹴り開けると。
「入れ」
説明もなく、ただ促すのみ。
蹴り開けたよ……鍵すら確認せずに……この建物誰の持ち物なの…………。と、いう疑問を込めてピッコロを見上げてみたら、早くしろと言うふうに顎をしゃくられた。
嗚呼、とにかく入らないと話が進まないのね……。恐る恐るは建物の中に足を踏み入れる。
言われるまま勝手に上がり込んでいるけれど、ここは本当に誰の持ち物なのだろう。
流石に不法侵入ではないはずだが、先生方にはの常識では図れない人物もかなり多く不安は拭えない。
しかし問うたところで答えが返って来るのだろうか。
が何と問えばピッコロの答えが引き出せるのかを考えて黙り込んでいたら、先にピッコロが重い口を開いた。
「お前に聞きたいことがある」
「えっ、あたしに……?聞きたいこと、ですか?」
寧ろなんの説明もなくこんなところに連れ込まれたの方が疑問符だらけだと思うのだが。
それともこんな回りくどい方法で隔絶しなければ問えないようなことなのだろうか。
と、考えたところでは脳内が熱を持ったのを感じた。
他人がいては質問しにくいこと、それってつまり……。
「昨日のことだ」
ああぁぁあやっぱりー!!!!
一気に頬までもが熱を持つ。
布団の中を転げ回るほど恥ずかしい記憶が蘇ってくる。それでなくとも今朝ピッコロに顔向け出来ないようなことをしたばかりなのに……!
色んな気持ちがない混ぜになって、ピッコロから視線を逸らし俯く
しかしピッコロは容赦ない。
ずかずかとの目の前に寄り、彼女の顎を掴んで無理矢理上を向かせた。
きちんと視線が交わるように。
「どうした?まるで何かを咎められているかのような態度だな」
「な、っ、何かって何ですか……っ」
精一杯強気な態度を取ろうとも目は泳ぐし声は上擦る。だって図星なのだから。
もしかして怒られているのかもしれない。その理由はまだよくわからないけれど。
びくびく怯えるの顎を掴んだまま、ピッコロが体を屈めて無表情の顔を近付けてきた。
それこそ吐息が触れそうなほど、近く。
「せんせ……」
至近距離で見つめれると余計に居心地が悪い。
こんなことをするピッコロの意図を汲みかねて唇を動かすが、質問が言葉になることはなかった。
その前に間近に迫ったピッコロの表情がほんの僅かに昏く笑んだから。
、お前昨日俺に発情したんだろう?」
正直、頭を思い切り撃たれたような衝撃を感じた。
ピッコロの言葉を聞き取っても、脳が正確に理解しない。
今彼は何と言った?発情?恋愛の機微に疎いナメック星人のピッコロからそんな言葉が出てくるなんて。
驚きすぎて二の句が継げない。
「酔狂な奴だな、お前は。俺に発情したところで全く不毛だというのに」
淡々と話を続けていると思っていたピッコロの声にはいつしか憐憫の色が混じっており、無理矢理顎を掴んでいた手は離れての頬にやんわりと触れた。
それはさっきまでの強引な仕草とは全く違う。優しく労わるかのようなタッチでの頬を撫でていく。
「あ、あたしは別に発情なんて……」
「残念だが、あの時のお前を見ていた奴がいる。曰く、往来で睦み合うなと言うことだ。馬鹿馬鹿しい話だと一蹴してやろうかとも思ったがな。そいつは少なくともお前が気の毒だと」
見られていた……!?
の体からすっと血の気が引いた。
まさかピッコロに尻尾で絶頂させられる瞬間を見られていたなんて。
ああぁぁあ死にたい……っ!
「先生あたしもう死にます死ぬしかないんです死なせてください」
「いきなり何だ」
「あんなところを見られていたなんてあたしもうお嫁に行けません……!」
「可笑しなことを言う。発情なぞしていないのではなかったのか?見られて困ることは何もなかろう」
「……!!!」
ピッコロは未だ至近距離を保ったままの頬を撫でている。
こともなげに言い放つ顔を睨んでみても、結局ピッコロには痛くも痒くもない。
、お前が俺の事を好意的に見てくれているのは知っている。少なくとも、友好的な奴だということは分かっていた。ナメック星人である俺にはやや理解しがたい部分もあるが……」
不意に頬を撫でていた手が離れた。
の髪に触れ、ゆっくりと腰に回される。空いていた方の腕も同様だった。そのまま彼はぐっと力を籠め、の腰を力強く抱き寄せる。
顔だけでなく、体の距離まで近くなる。血の気が引いたはずの体がじゅわっと熱を帯び、心臓が速くなった。
「あ、あの、ピッコロ先生……ちか、近すぎます……っ」
「親愛を知った俺ならばお前の心を読まずとも、ある程度はお前の心を理解出来る」
どぎまぎするの言葉を無視して、ピッコロが唇で目尻の辺りに触れてくる。
ヒトが行う慈しみの仕草を一体どこで知ったのだろうか。
嗚呼、彼が恋愛の機微に疎いなんてとんでもなかった。
寧ろ逆だった。
慈しみと労りの感触にの瞳が空中から、目の前のピッコロに移る。
「先生……、あたし、先生が好きなの……。でも、それ以上どうしたら良いか……」
「そうか。俺も似たような気分だ」
「この先のことも教えてくれますか……?」
「どうだろうな」
この台詞はピッコロの本心から発せられた言葉だった。
神と融合した存在であればこそ、彼女の言葉の意味は理解できる。恐らく本質に限れば全てを知っていると言っても過言ではない。
けれどもこの先は教科書を杓子定規になぞる行為ではないはずだとも何となく分かっている。
つまり知識の差はあれ実践に至るとなると二人の間に差は殆ど無い。
ピッコロは指先でのふっくらとした小さな唇を撫でた。
「ん、ンン……」
くすぐったそうに目を細めるが腕の中で身じろぐ。
たったそれだけのことにふと愛らしさなどを覚えてしまい、これが庇護欲というものなのかと思った。
幼い悟飯に感じたそれとは異質にも感じられたが、だからといってどう違うのかと言われれば返答に困る感情である。
一つはっきりしているのは、を可哀想だと思うと同時に決して悪感情だけで片づけられないということだ。
が自身に発情したということは、(不毛ながらも)ピッコロをオスと認め、性愛を感じて求めたということだ。それは寧ろ一種の優越感のようなものをピッコロの中に芽生えさせる。
誰かしらに唯一と求められることの歓びは、悟飯から受けるだけで十分と思っていたのだが、どうも違うらしい。
大人しく唇を撫でられているのそれを奪うことは容易いだろう。
だからこそピッコロはもう一度念を押す。
「俺には真似事しかしてやれんぞ。それでもいいのか」
「何でも、良いです……。ピッコロ先生になら……。何でもされたい」
の言葉にピッコロの中の憐みの感情が一層強くなる。
「……後悔するなよ」
口をついて出た言葉は、恐らく自身に向けて言っているのだと思った。
腰に回した腕に力を籠め、更に体を密着させると、の体が緊張に強張る。
解してやる方法など思いつくはずもなく、ただただピッコロは知識のままにの唇を奪った。
「ふ、っ……」
小さく息を詰めるがぎゅっと目を閉じる。
重なり合った唇の感触は想像以上に柔らかくて暖かくて。物理的な刺激に、は脳が沸騰するかと思った。
「せんせぇ、だめ……、ドキドキしすぎて死んじゃう……」
「サイヤ人のお前がそんなヤワに出来ていると本気で思うのか?それに、そんなことではこの先命がいくつあっても足りん」
ぐい、とピッコロはのタイムパトローラー用の戦闘服を引っ張り上げた。
素体は普段サイヤ人の面々が使っているものと同じである。不思議な弾力と硬質性を併せ持つそれは見かけと違い、引っ張るだけで損なうことなく簡単に脱がせることが出来る代物だ。
「あ……、せ、せんせ……」
チューブトップの下着姿にされて恥ずかしそうに肩を丸める
その仕草はピッコロの庇護欲に爪を立てる。
「お前のそういう姿は悪くないぞ」
俯きがちになってしまうの額に唇を寄せ、軽く抱き上げるとその場に座り込む。
そして彼女を膝に乗せたまま、やんわりと首筋に顔を埋めた。
「あぁん……、あっ、あの……こ、ここでするんですか……?」
床に座り込んだピッコロの膝の上では肩を竦める。流石にこの体勢は初心者にはハードルが高すぎるような……。
蒼白の表情を浮かべているにピッコロはそういえば……と思う。
「人間はこういうことを寝台で行うんだったか」
「は、はい……多分……、ひえぇっ!」
を横抱きにしてさっと立ち上がると、そのまま寝台へと運んでいくピッコロ。
自分の足でシーツの海に辿りつくのだと思っていたは、思わず両手で顔を覆う。
の上に覆い被さり、それを覗き込むピッコロは首を傾げた。
「どうした。不正解だったか?」
「……だ、大正解、ですぅ……」
でも恥ずかしい。凄く恥ずかしい。優しく下ろされてしまってピッコロの顔をまともに見れない。
そもそも先生の中でもピッコロは優しい方だとは言え、こんな風に運ばれたりするのは初めてだ。どんなに優しい先生だって修行中は厳しい言葉を投げてくるし、それが当たり前になっている。
だから、こんな風に扱われると照れて仕方がない。
「せんせぇ……ほんと、あたしもう色々ダメなんですよぅ……死んじゃう……」
「またそれか。ならば好きなだけ死ね。嬲った後でドラゴンボールで蘇生してやる」
言いながらピッコロは、薄手のチューブトップの上から、の胸に甘く噛み付いた。
「ふあっ!」
布越しの鈍い感覚だが、胸を食まれるという感覚は刺激的である。
だがピッコロは、更に食んだチューブトップの下着を口で引っ張り上げてしまった。滑らかな素肌が明るい室内に晒される。
「やっ、な、何て脱がし方するんですかっ…!?」
「どうしようと俺の勝手だろう」
口で下着をたくしあげられて露わになった生の肌にピッコロの舌先が触れる。
「あ、あぁ……」
そこはただの皮膚の上。敏感な部分ではない筈なのに、ぬるりと辿られるだけで腰がぞくりと重くなった。
ぬろぬろ這いまわる感触に爪先がいちいち引き攣る。
「なかなかの味だ」
最後にちゅっと肩口にキスをしたピッコロが、を覗き込んで舌なめずり。
下品な値踏みの感想に頬がじんわり熱を持つ。
「へ、変なこと言わないでください……」
「嘘はないぞ」
余計性質の悪いことを……!と反論する間もなく、今度は胸の膨らみをがぶりと一噛みした。
「はぁぁんンっ……!」
柔らかな丸みと膨らんだ先端を軽く吸っては離し、またかぶりついては軽く吸う。
胸を弄ばれるような愛撫だが、輪郭のぼやけた性的な行為の想像で自慰を繰り返していたの脳には絶大な刺激だった。
緊張のためぴっちりと腰に巻いていたはずの尻尾が、思わず解けて空中に揺れる。
誘うようにくねるそれに目聡く気付いたピッコロは昨日とは打って変わって優しい手つきで、それをやんわり掴んだ。
「んあ、あぁ……し、尻尾、は……」
「そう言えば昨日はこれを掴まれて発情したんだったな」
反応を確かめつつふさふさした尻尾を優しく上下に擦ってみる。
「はうぅんっ、こす、ちゃ……っ、あ、だめ、だめ、きもちい……っ、こするのきもちいいぃぃ……っ」
「何よりだ」
声質が変わったのを確認すると、満足そうにピッコロは唇での乳首を抓んだ。
「やぁあっ、それ、いっしょにしないで……!」
自慰の最中に自分で乳首に触れてみたこともある。
敏感に膨らんだそこに触れるとくすぐったいような、腰の奥が苦しくなるような不思議な感覚を覚えたものだが、ピッコロから与えられる感覚はその何倍も強かった。
そして、髪を乱して喘ぐの先端にとうとうピッコロの舌先が触れる。
何度も甘噛みを繰り返されたそこを労わるかのような柔らかさとぬるんだ唾液の感触に加え、性感帯の尻尾を撫でまわされるという強烈な仕打ち。
「くぅんっ、あっあっ……!無理っ、イくっイくっいくうっ!」
僅かに舐められただけでの体が極みへと駆け上がってしまった。
びくっびくっと腰が跳ね、体内が痛いほど収縮する。
「くはっ、あっ、はぁ、はぁぁぁ……」
まさか尻尾と胸への愛撫だけで絶頂に導かれてしまうとは。
しかしピッコロはが絶頂に上り詰めた後も愛撫を止めない。
それどころか唾液を啜る音を立てながら更にいやらしく舐めしゃぶる。
「んんんっ、ああぁ……待って、待ってえ……」
腰をくねらせ髪を乱したの足が、自身の下で何度も跳ねた。
「ふあ、だめ、やだ、きもちぃ、止めてぇ……」
無意識にの手が、覆い被さっているピッコロを押し返そうとしてその肩を掴む。
弱々しい抵抗に、僅かな憐憫を感じて舌先を肌から離して様子を伺うと肩で息をすると目が合った。
肩で息をしている彼女をピッコロが見るのは初めてではない。寧ろ修行中はいつだってそんな姿を見ていたはずである。
しかし、性の色に染まる頬や、何かを欲している視線に出会ったことは未だかつてない。
成る程オスという生き物はこういうものに認められ求められたいと思うものなのか。
神と融合してから、生物の本能に愚かさを感じることは少なくなったが、これも今のピッコロにとっては悪くないものだと思えた。に身を預けるに足るオスであると認識されたと思えば、不思議と高揚感まで湧き上がってくる。
自身には生殖本能なぞ存在しないと思っていたが、それを認識させるメスに出会っていなかっただけなのかもしれない。
事実、の表情に淡い興奮を覚える自身がいる。
ピッコロは極力優しく、戦闘服の上からの足の間に手を触れさせた。
「あ、そ、そこは……」
「嫌ではなかろう?少なくとも交尾の真似事がしたいのなら我慢するんだな」
「こ、交尾って……!」
非難じみた声を上げるの足の間を、ピッコロの手がすりすりと撫でる。
自慰で覚えた後ろめたい快感を無意識に期待して、の体がぞくりとざわめいた。
「あっ……だ、だめ……こんな……」
くにくにと探るように力を入れてみたり抜いてみたりが繰り返され、そんなつもりはなくとも背中が勝手にしなり上がる。
しかし特に敏感な部分の上を押さえ込まれた瞬間。
「はうっ!あ、やだ、そこ、いやあ……っ」
殊更強い反応を示してしまい、ピッコロが意地悪く唇で笑ったのを見た。
同じ行為を繰り返されるとじゅわっと体の奥から熱い雫が零れ落ちてしまう。アンダースーツ越しに触れているピッコロが薄っすらとした湿り気を感じる程に。
「随分濡らしているようだな。見せてみろ……」
性急な動作でアンダースーツを引き下ろされ、慌てたがそれを阻止しようと手を伸ばすが間に合わなかった。
一緒に下穿きまで脱がされてしまい、羞恥に顔が熱くなる。
「そんな、あの、見せるようなものでは……!!」
「いちいち煩いぞ」
遠慮もなく膝を割り開かれてしまい、は両手で顔を覆った。
自分でも見たことのない部分であるが故に、どうなっているのかさえ分からない。羞恥に体温が一気に高くなる。
「あぁぁ……恥ずかしいよォ……」
足を閉じようにも、自身よりずっと力の強い腕ががっちりと押さえ込んでしまっているためどうすることも出来なかった。
致し方なく羞恥に震えながらじっと体を緊張させていると、不意に腰を軽く抱えられたのが分かった。
「え……」
体勢を変えられた直後に感じるぬるりとした感触。
はっとして思わず視線を下に移せば、の足の間に顔を埋めるピッコロが見える。
「うそ、ああっ、やあぁっ、いきなり……っ、やめて、せんせぇ……っ」
ここまで来て止めろと言われて止める者も少ないだろう。ピッコロも同じで、止めるつもりなど全くない。
寧ろここからが本番だ。
充血してぬるつく粘膜に、ヒトのものと比べて随分長い舌を這い回らせる。
「あんっ、あぅんっ!はぁはぁはぁ……っあぁだめ、だめ、そこぉ……せんせ、だめなのォ……っ」
腰を淫猥に揺らめかせて喘ぐの、最も敏感な突起をピッコロの舌がぞろりと撫でた。
軽く押しつぶすくらいの力を込めて舐め上げられると、下腹部の奥がきゅうううっと収縮してしまう。
「あー……っ!」
びくっびくっと反射的には背中を反らした。爪先が甘く痺れるほど気持ちいい。
アンダースーツ越しに触れられた時よりもずっと濃い愛液が溢れ出てしまう。
ピッコロの口内にの味が広がった。甘酸っぱい粘性を含んだ舌触りは未だかつて味わったこともなく最高だった。
ピッコロはじゅるじゅると音を立てて彼女の愛液を啜り上げる。
そして畳みかけるように、再びの尻尾を掴んだのだった。今度は先程よりもずっと強く。
「あは、しっぽ、それすごいィ……っ、かんじるよォ……!」
昨日の記憶がの脳裏にフラッシュバックする。
性感帯を痛いくらい引っ張られたあの快感は強烈に脳裏に焼き付いており、忘れようと思っても簡単に忘れられるものではない。
またされたいと密かに思っていたから尚更だ。
いやらしくお尻を揺すりながら、誘うように尻尾の先をくねらせてもっともっとと懇願する。
「しっぽ、あ、あ、きもちぃいよォ……っあぁ、ああぁあ、しっぽしゅごい、くうぅ、もっとらんぼうして、おもいきりしてぇ!」
の愛液を舐めるのに夢中のピッコロは、毛羽立って膨らんだ尻尾を思い切り引っ張ることでに応えた。
「んぅう、イく、イくっ……あーっ、出ちゃう、イく、出ちゃう出ちゃう!あっあっ、イくう!」
びくびくっとの腰が震えあがった。同時にぷしゃあ、と温い体液が噴き出す。
腰から駆け上がる甘い快感に痺れた体ががくがくと痙攣した。
息も詰まりそうな快感をがやり過ごした後、体を起こしたピッコロの喉がごくりと上下するのが見て取れた。
口元を手で拭う彼曰く。
「……なかなか美味い」
「っ、……」
どうやら噴いた潮を飲まれてしまったようで凄く恥ずかしい。感想なんて聞きたくなかった。でももう羞恥に構っていられるほどの理性はの中に残されてはいない。
お腹の中は苦しいくらい切なくて、今すぐめちゃくちゃに犯されたいと訴えている。
与えられた絶頂だけでは満足出来ない気持ちを埋めてもらいたい。
抱き合って繋がればもっと気持ち良くなるはずなのだ。
「ねえせんせ……、せんせぇもあたしで気持ち良くなって……」
短い間に二度も絶頂させられたうえ、潮まで噴かされたは混濁する意識の中でピッコロに手を伸ばした。
しかしその手が触れるより早く、ピッコロが制止するように手を掴んでしまう。
「……先生、?」
意図を図りかねてが視線だけでピッコロを見上げた。
ピッコロはその視線を受け止めつつも、この日一番の憐憫の情を込めた視線を投げ返す。
「残念だが俺にはヒトの生殖器は存在しない。気持ち良くなるという概念は俺には当てはまらない」
「……え…………?」
「言っただろう、俺に発情するなど不毛だと。真似事しかしてやれんと」
とてつもなく可哀想なものを見るピッコロの視線がを深く射抜く。
行為の前に見せた憐憫の表情はそういうことだったのか。何故愛を伝えられながらも憐れまれるのか分からなかったが、今ここでピッコロの意図が全て分かった。
「絶望したのならこれきりにするか?、お前には子を産み繁栄という幸せを掴む権利がある。それを短絡的に奪うつもりは毛頭ない」
は言葉を失った。
つまりピッコロは恋愛の機微に疎い振りをしての事を袖にしようなんてことは全く考えていなかったのだ。
寧ろその逆で、望むものを与えてしまえば未来のの選択肢を一つ取り上げてしまうかもしれないと危惧してくれていたのだ。
嗚呼、なんということだろう。
本当に如何すればいいのか。
そんなことをされてしまったら。
ますます深みに嵌るだけだと言うのに……。
「……先生、あたし、先生を諦めるなんて出来ません。だって、先生が好きなんです」
如何に不毛であったとしても、は可哀想な存在では決してない。
深く愛されていると分かったのだ。
既に伸ばした手は繋がり合っているのだから。
「さっき飲んだの、美味しいって言ってくれましたよね?これからもあたしをご馳走しますから……。ねぇ、先生……明日はあたしの部屋で、シましょう?」



かくしてこの後、の部屋に通うピッコロの姿がたびたび目撃されるようになる。
ナメック星人が恋愛の機微に疎いことは周知の事実であり、ただただ悟飯のように可愛がっている弟子の元に通っているだけだと認知された。
まさかそこで秘密の食事をしていると気付くものは誰一人として存在しなかったのである。