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拍手でも良ければご馳走いたします/ピッコロ

サイヤ人=大食漢。
とてもコンプレックスなんです。
「……おい、お前痩せたんじゃないのか」
「え……っ」
寝室での秘密の食事の後で、手首を掴まれそう言われた。
最近では食事目的を兼ねながら体をじっくりと愛撫してくれるピッコロ先生にどっぷりなのだが、そこまで細かく見ているとは思わなかったので。
「た、多少は……痩せたかもしれませんね。好きな人が出来ると女ってそうなるものなんです」
半分は本気である。
大好きな相手と修行修行で明け暮れるのも不毛じゃないか。大袈裟なロマンスは期待していない。ただ、少しばかりのときめきのために綺麗になりたいだけで。
「多少……だと?」
しかし返答を聞いたピッコロの視線が鋭くなった。
理由は分からないが怒らせたかもしれない……?
「タイムパトローラーとして戦ってるお前が体作りを怠ってどうする」
「ええええ、いや、大袈裟ですって。女の子なら多少ダイエットとかですね」
「不要だ」
「ええええ、いや、でもあたしも人並みにお洋服とか」
「普段のままで良かろう。外側よりも中身が肝心ではないか。俺が洋服を気に入ってお前の傍にいると思っているのか?」
ちょっと待ってそれだと先生、味を気に入って傍にいることになりませんか。
「トランクスにも食が細いと言われたと言っていただろう」
「ま、まあトランクスはあたしよりずっとたくさん食べますので……。男の子だし」
「……」
その返答が正解だったかどうかは分からないが、結局ピッコロはその先を言及せず部屋を出て行った。
翌日。
続けてピッコロが訪れたことに驚くこととなる。
「……ピッコロ先生……?連日って珍しいですね」
大抵3,4日に一度程度の訪問のはずなのだが。それに良く分からない荷物を携えている……?
困惑を読み取ったのだろうか、ピッコロはずかずかと部屋に押し入り迷わずキッチンへと入っていく。
「あ、あの」
「担任をやっているからには中途半端は気に入らん。体が元に戻るまで俺がお前の食事の面倒を見てやる」
「ええええ!」
どさどさと袋の中の食材を机の上にぶちまけるピッコロの姿にただただ驚くしかない。そしてその食材のラインナップにも……。恐る恐る問いかける。
「あ、あの、先生……。調理の経験……どれくらいあるんですか」
「……とりあえず切って煮込めば問題ないのだろう?それくらい誰にだって」
「問題ありますから!!!!!良いです、ちゃんと食べます!だからあたしのことはお構いなくゥ!!!!!」

できあい

「私はいつも間に合わせの愛ばかりを求めているの」
白い体を横たえたままで女はそう呟いた。
この女はある惑星に住む一人の娼婦だが、最近足繁く通っている。何処が気に入ったという訳でもないが、この女は言葉少なで詮索癖がなく好ましかった。
横目に見遣るターレスは黙ったままで続きを待つ。
「出来合いの女なの。分かる?誰かのための女なんかじゃないの。既製品と同じ。不特定多数のために存在する女なんだわ」
「誰でもいいって言いたいのか」
「……そうじゃ、ない」
女は拒絶するように背を向け、横を向くと背中を丸めて小さくなった。
流れ落ちた長い髪がシーツの上に散らばる様子は、先程女を下敷きにしていた瞬間を思い出させる。
薄らと背骨の隆起が見え、誘われるようにターレスはその背筋を指でなぞった。
「回りくどい言い方じゃァ伝わらないぜ」
「それでいいの。汲み取ってもらうなんて贅沢、あたしには勿体な過ぎるから」
貴方は、客の中でも飛び切り良い人よ。
背を撫でられたことを次の催促と思ったのだろう、女は顔をターレスに向けて困ったように微笑んだ後でそう言った。
女の言う良い人の基準はターレスには良く分からない。
ただ、金で色事を買うだけの関係に人の良し悪しなどあるのだろうか。それとも自分の知らぬところで嫌な客に当たっているのか。
「明日までは貴方のものだから。まだ、足りない?」
女がしどけなく体を隠す掛布を捲り上げる。
細くて白い体が薄暗い部屋で、ターレスにだけ晒されている。
毎度のことだが、女の体にはターレスの残滓は殆ど無かった。
体液は当然のこと、唇の跡すら残していない。女の仕事を考えれば当然のことで、他の男の気配を体に残して次の男を取るなどと言うことが出来ようはずもなく。金の関係ならばそういうことも一つの暗黙の了解なのである。
つまりそこに愛らしい愛の跡など欠片もないのだ。
間に合わせの愛を求めているとはこういうことを言っているのだろうか。
別段ターレスは足りないと感じているわけでもなくどちらでも良かったが、掛布を捲り上げられた体がとても寒そうに見えたので抱き寄せてやった。
実際、その体はひんやりと冷たく、先の色事の熱などとっくに過ぎ去ってしまっていて。
「……できあいの女ってのはこんなに冷たいものなのかねぇ」
「だって、作り置きだもの。……温めてくれる人がいないと、ずっとそのままなのよ」
ゆっくりと首に回される細い腕。
しなやかでか弱いそれを僅かに愛しく感じてしまう。
女は魔性だ。憐みを売ってターレスに憐憫を揺り起こしているのなら、きっと半分成功している。
唇を重ねながらターレスは明くる夜も、そのまた明くる夜もここに来てしまう予感がする。
好ましい女の憐れな言葉に溺れるほどの愛を教えてやりたくなってしまったから。

「俺がお前を溺愛の女にしてやるよ」


出来合い/溺愛

愛しい年上のひと/ver.キャベ

僕は走っていた。
こんなの柄じゃないって分かっているけど。
僕は走らずにはいられなかった。
……生き残れなかった。
僕は生き残れず消えてしまった。
僕だけじゃない。カリフラさん、ケールさん、ヒットさん、…………僕を内包する全ての環境や世界さえも。
それはつまり、貴女も巻き添えになったと言うことだ。
あの時消えてしまう僕は最後に貴女を思い出していた。
傍にいれなかったことを悲しく思っていた。
貴女は最期の瞬間どうしていたんだろう。
僕が苦しみを感じなかったから、貴女も多分苦しくはなかったはずだ。
ただ瞬間的に意識を失った、そういう感覚だったんだろう。
その傍に僕はいなかったんだ。
いなかったんだ。
走り通しで呼吸が苦しい。
大会中はもっと苦しかったはずなのに、今の方がずっと苦しく感じられる。
胸が痛い。
岩場の先の拓けたところで貴女はいつも僕が来るのを待っていてくれた。
あの日あの時まで、そう正に消える直前でさえ貴女はここで僕のことを……。
「──さんッ!!」
掠れた声で貴女を呼ぶ。
呼びながら走る。
嗚呼、岩場が開けてきた。
髪をなびかせて凛と立つ貴女の後ろ姿を脳裏に描く。
「──さん!」
名前を叫んで駆け込んだ先に、貴女の姿は無かった。
そんな筈はない……。
皆戻って来た筈なのに。
辺りを見渡す。
赤茶けた岩場と乾いた風、いつもの場所に貴女だけがいない。
そんな……。
皆戻って来たんじゃなかったのか?
そんな、僕はまだ貴女に何も伝えていない。
勇気がなくて、ただ一言、貴方を想う気持ちの一欠片すら……!
「キャベ君!」
冷たい汗を流す僕の頭上から声が降ってきた。
と、同時に僕の体に激しい衝撃が加わって、僕の体が真後ろに倒される。
「っ!!」
真正面から勢い良く抱き付かれたんだ。
声を出すことも出来ないくらいの痛みが走ったけれど、それ以上に嬉しくて絶句していた。
「お帰り……、キャベ君。疲れたでしょう?体は大丈夫?何ともない?」
「ハハ……今は、何ともないですよ」
「今は?大会が終わったのはついさっきじゃないの?」
受け答えに僅かな違和感を感じる。
どうやら、消滅時の記憶は失われているようだ。……少しほっとした。
「無事に帰って来てくれて良かった……。キャベ君に何かあったらあたし……」
「大袈裟ですよ。でも、僕もまた貴女に会えて良かったと思ってます……」
僕に抱き付いたままの彼女の背中に腕を回す。
愛しい年上のひとの体はいつだって僕を翻弄してどきどきさせるんだ。
照れるのをぐっと堪えてその体を抱きしめた。
「!……キャベ君ってば……。少し離れてるうちに、ちょっと男になっちゃったの?」
色艶を含む声も僕の緊張に拍車をかける。
だけどもう後悔はしたくないんだ。
「今まで勇気が出せずはっきり言えませんでした。だけど、伝えなかったことを後悔したんです。僕は、貴女を……愛しています!」
頬が熱い。
呆気にとられたような貴女の顔を直視するのも恥ずかしい。
でも、目の前の顔がゆっくりと淡く染まっていくのを僕は見た。続けて、彼女は両手で頬を覆い隠すような仕草をする。
「見違えちゃう。……ちょっとじゃないくらい……成長しちゃったのね」
困ったように視線を逸らす貴女は、何故だろう、今だけ僕よりもずっと少女のように見えた。

愛しい年上のひと/ver.シャロット

※シャロットはゲームの登場キャラクターです。

右も左も分からないと言うのは、光の射さない深海を闇雲に歩き回るようなものである。
息苦しく、動きにくく、隣に何があるのかもわからない。
記憶さえ曖昧な今、自身は何を指標に先を目指せばよいのだろう。
終着点は、元いた場所へ帰ることなのか。それとも現在に順応することなのか。
そもそも過去と現在が交錯するこの舞台へと誘われた自分が順応する現在など存在するのか。
しかし縁(よすが)を失ったことを嘆いてみても現状が変わるわけでもない。
ただ、深海に差し伸べられる手を掴んでみることくらいしか、シャロットに選択肢はなかったのである。


「こんなの見たことねぇ」
「そう?地球では普遍的な食べ物らしいわよ」
あたしもあんまり詳しくないけど、と微笑みながらそいつは手に持った白い何かを口に含んだ。
ブルマとジャコのボディガードを始めてしばらく経つ。
その間に何人かと知り合っては別れた。
俺の記憶の琴線に触れるような人物は誰一人として存在しなかったが、多分あいつらに拾われて幸運だったんだろう。
面倒なことも多いが、とりあえず空腹だけは免れている実感がそう思わせる。
俺の隣に座るこの女もブルマとジャコが拾った一人だ。
地球人でもサイヤ人でもないらしい。説明されたが正直良く分からなかった。
手渡された白い食べ物が緩やかに形を失い始めたので、俺も隣に倣って先端から口に含んでみる。
「うわ、冷てぇ」
「あら?溶け始めてるの見て分からなかった?冷たくて甘いわね。美味しい」
確かに美味い。
口に入れた瞬間は冷たくて、溶けたら甘い、滑らかな舌触り。
柔らかいそれを夢中で舐めては飲み込んだ。
繰り返していたら、いつの間にか隣の女よりも先に食べ尽くしていて。
「シャロったら、ほんと食べるの早いわね」
俺を見て上品に、でも屈託なく笑う。
こんな生き物を俺は傍で見たことがないと思う。サイヤ人の女は往々にして気が強く喧嘩っ早くて……ブルマの方が本質はずっと俺たちに近いのではと感じる。
「お裾分けしてあげる」
妖艶に白いものを含んだ唇が、ゆっくり俺に近づいてくる。
重なり合う瞬間に目を閉じろと教えられたから、その通りに行動した。
嗚呼、冷たくて溶けたら甘い……ザラついた舌触り。
初めて女に口付けられた時は物凄く戸惑ったが、今ではそれも多少慣れた。
最中に女の手を取って指を絡めると舌先が柔く震えることも肌で覚えた。
美味いものに際限なくありつける今の状況は正直不快じゃない。
寧ろ、この甘さが癖になる。
いつか本気で手放さなくてはならなくなった時、俺はこの絡めた手を振り解けるのだろうか。

結び目

※ツイッターにてサクランボの茎を結べるとキスが巧いと教えて茎渡そうとしたら実技で巧さを教えてくれるのが似合う推しを…というネタ振りを見てインスパイア(言い方次第感)
ピッコロ(ゼノバース/サイヤ人女夢主)

地球人は何かとおまじないの類が好きだと思う。
どうこうすれば願いが叶うだの、どうこうすれば運が良くなるだの。
サイヤ人であるあたしにはあんまり馴染みがなくて今一つ理解できない。
占いとか言うオカルトも実際にその通りになった人がいるとでもいうのだろうか。見たことがないけど。
と、言ったら地球人の友人は『統計学』ってやつよ。とか言って笑ってた。
そんな折、おまじないや占いではないけれど、さくらんぼの茎を口の中で結べるとキスが巧いという話を聞かされた。
成程、実際の行動が伴うのであればオカルトでも何でもない。
き、キスの上手い下手は別として、試しにやってみるくらいなら別段損もないだろう。…と、始めたはいいけどこれがなかなか難しい。
こんなの成功したやつなんているのか!?
いつ時の界王神様に呼ばれても良いように、時の巣あたりで口をもごもごさせていたら、少し前に先生をやってくれていたピッコロさんに話しかけられた。
「貴様さっきから暇そうだな。手が空いているなら俺の訓練に付き合え」
「ん、ん……、いいれふけろ……」
正直いい加減さくらんぼの茎をもごもごやるのも飽きていた。
やっぱりあたしは体を動かす方が向いていると思う。
口の中から茎を取り出したあたしをピッコロさんは怪訝そうに見つめていた。
「何を食っているのかと思えば……。おおよそ普通の人間が食わない部分を食おうとしていたのか?サイヤ人の食い意地には恐れ入る」
「違います!食べてません!!ピッコロさん神様だから知ってますよね?さくらんぼの茎を口で結べると……」
「何ぞやが巧いというやつか?つまらんことを言う」
ですよね!あたしもそう思います。
実際試す相手もいないあたしが茎を一生懸命結んでみたとて何の得になるのかと言われれば反論も出来ないし。
「そんな回りくどいことをせずとも本番で試してみれば良かろう」
「え?」
ピッコロさんの言葉の意味が全く分からずキョトンとするあたしの腰に、力強い腕が回された。
あれあれ?ちょっと待って、すっごく顔が近い……。
「んむっ!」
勢いのままに深く重なる唇。
ぬるりと侵入してくる感覚にぞくりとした。
長い舌がねっとりとあたしの舌に絡みついて来る。
何これ、何これぇっ……!
じっくりと味わわれた後で漸く解放された。
徐々に熱を持つ頬。初めてを奪った犯人は目の前で涼しい顔をしている。
「どうだ?俺なら茎を結べると思うか?」
「……はい、3秒で終わると思います……」
や、初めてだから上手い下手は分からないけど……。
多分ソッコーで結べると思いますよ……手だけはこんなに早いんですから。

結び目/2

ブラック(破壊神女夢主)

「さくらんぼの茎を口の中で結べるとキスが巧いって知ってる?」
あたしの言葉に名無しの黒髪男は顔を顰めた。
彼は最近になってあたしの領域に現れるようになった破壊対象だ。
何故破壊対象に認定されたかというと、使ってはいけない手段を用いて空間転移を果たし、世界を荒らし回ったから。
どうもサイヤ人らしいけど、尻尾はないし、大猿化しないみたいでちょっと疑っていたりする。
加えてサイヤ人のくせに相当強いのよね。おかげでなかなか破壊出来なくて困ってる。
「何故さくらんぼの茎なんだ。論理的理由が一切見当たらんな……」
「知らないよ。ただ、最近上手く銀河系を育てた界王神がいたから興味あって、一つの惑星を見に行ったの。ヒューマノイドタイプの知的生命体が高度な文明を作っていたわ」
「それと茎とどう関係がある」
「いつの時代でもヒトの世界には伝承や神話が残るものよ。おまじないもその一つね。まあ、これはそういうのじゃなくて、お遊びみたいなものなんでしょうけど。知り合った子が教えてくれたの」
「……低俗な遊びだな。やはり人間の考えることは理解出来ん。恐れ入ったよ、頭が下がる」
彼の人間アレルギーは相当なもので、お陰様で彼を破壊しないとあたしの領域は草ならぬヒト一人生えない不毛な銀河ばかりになってしまいそうと危惧してる。
どうやら特定の界王神を探しているらしい。
なかなか目当ての宇宙域に到達できないから、よりマクロに視野を持つ破壊神に目を付けたようだった。
その最初のターゲットがあたし、ということになるんだろう。
まあ、素直に教えてやる気もなければ、これ以上空間転移を許すつもりもないんだけど……。
「そんなこと言って!経験もないくせに負け惜しみでしょう?」
この世間話は戦闘準備みたいなものだ。
お互いの腹を探り探りしながらじりじりと距離を詰め合っている感じと言えばいいのかしら。
軽口の叩き合いに焦れったくなったどちらかが手を出した瞬間に戦闘が始まる。
今日も、そのはずだった。
「ハッ、なら試してやろうか」
彼が底意地の悪そうな視線を細めた瞬間、あたしはきつく抱き寄せられ、唇を重ねられていた。
「ぅン……っ」
思わず息を飲む。
素早く滑り込んできた温かな感触と、初めて知る他人の味が広がる感覚。
そうかと思うと官能的な感触がゆるやかにあたしの口内を撫で回していた。
足が震える。どうしよう立っていられない。
ちゅる、と小さな音を立てて離れていく体温を惜しむようにあたしは彼の胴着をきつく掴んでいた。
「良いザマだなァ、破壊神……」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた彼が、あたしをさらに貶めようと顎を掴んで視線を合わせてきた。
屈辱に脳内が熱を帯びる。
クソっ……そんなつもりなかったのに。
あたし、男にだって一度も負けたことなかったのに。

ゼノバ2世界のフリーザ

フリーザは実利を優先する生き物である。
善悪敵味方なぞくだらない物差しでしかない。そもそも注視すべきは最も少ない手間暇で如何に多くの利益を得るかということだ。
効率の良い働きをするならば手段を選ばなくとも構わない。
そもそもの目的が達成されなければ結果に何も残らない。無駄という言葉だけを負うことになる。
そんな意味のないことは大嫌いだった。
しかし、このフリーザ軍に在籍しつつ、意味のない行動を取りたがる人物が一人存在した。
それはこのコントン都とかいう場所で、フリーザが気紛れに拾った一人のサイヤ人である。
最初は師事という形だった筈が、いつの間にやらフリーザ一派に入り込み、ザーボンドドリアギニューを制してフリーザの右腕的存在。
師事を始めた時はサイヤ人というだけで、下っ端にも馬鹿にされていたけれど、持ち前の要領の良さで今や敬語で挨拶さえされてしまう。
「嗚呼、あたしって強い……。でもそんなあたしよりフリーザ先生はもっと強い……」
元来強いオスを求める種族の彼女は、今やフリーザにどっぷりだった。
母星を破壊されたことなど正直どうでも良かった。寧ろ当時からそれだけの強さを持っていたなんて素敵すぎる。
サイヤ人とは少し違った賢しいところも魅力的だった。
フリーザ救出クエストで大きな功績をあげた彼女は、手隙の際にフリーザの傍に侍ることを許されている。
つまりさっきの独り言は、フリーザの真横に設えられた彼女専用の寝椅子に寝そべりながら放たれた言葉なのだった。
「暇そうですねぇ。暇なら部下を手伝ってきても構わないのですよ」
「折角の二人きりなのでご遠慮します。命令なら従いますけど」
出入り口に警護が二人立っているので、厳密にな二人きりではないのだが、立場上二人きりと言っても過言ではない状態だ。
何故か少し前からクウラがこのフリーザの宇宙船に駐留している。
クウラとフリーザは仲が良くない。寧ろ悪い。
フリーザの宇宙船の中に派閥を形成して牽制し合っている。
そんな折、急にフリーザが出入り口に警護兵を置くと言い出した。クウラ牽制の一環だとそれとなく思われているが、並大抵の戦闘員ではクウラに抗うことなく簡単に殺されてしまうだろう。
しかし彼女は知っていた。
置かれた警護兵の二人は最近クウラ派閥に寝返ったのだ。そんなものを近くに置くフリーザの神経の太さには驚かされる。
そしてきっと、何か賢しいことを考えているのだろうとも。
「……フリーザ先生。あたしたちがどうやって子孫残すか知ってます?」
「ええ、まあ……。見たことはありませんけどねぇ。それが何か」
「真似事で良いのでシません?先生もたまには息抜きが必要でしょう?」
「それを息抜きというのかどうかは知りませんが、私には必要ありませんよ。貴方達とは基本的な繁殖方法が異なります」
明らかにサイヤ人とは異質な生態を持つフリーザの言葉に彼女は半分がっかりしながらも、悪戯っぽく笑みを浮かべて見せた。
「まあまあ、内緒話は近くでしましょ?ほら、あたしの上に乗ってくださいよォ」
寝椅子の上で手を差し伸べる彼女を、フリーザは横目で見遣った。
気紛れに拾った雌猿が、よくぞまあこんなところまで来たものだ。勿論見込みもあると思ったから貴重な時間を投資したわけだけれども。
猿の小娘の言葉のままに動かされるのは正直不愉快でもあるが、彼女の笑みから何となく企みの気配も感じたのでフリーザは立ち上がる。
「乗れと言うのは具体的にはどのように?」
「覆い被さってください。体重をかけて密着してもいいんですよ」
「それは遠慮しておきましょう」
彼女の寝椅子に足をかけ、体の下敷きにすると出入り口の方から僅かに息を飲むような音が聞こえた。
成る程、この行為は特定の種族の感情の琴線に触れるらしい。
「フリーザ先生、クウラ様が大っぴらに派閥を広げようとしていますね」
フリーザの首に腕を回しながら彼女は小さく呟いた。
腕で上手く口元を隠しているので、彼女の言葉は警護兵には見えなかったろう。
「あたし、昨日派閥に誘われちゃいました」
「……ほほう、確かに面白いお話です。続けなさい」
「分かりました。フリーザ先生はそのままあたしの胸の上に手を置いてもらえますか」
「良いでしょう」
ぶよぶよとした彼女の胸の弾力にフリーザは怪訝な表情をしたが、彼女は気にせず話を続ける。
出入り口では更に緊張感が高まっている雰囲気も感ぜられた。
「考えたんですけど、派閥に乗っかる振りをしてクウラ様を何とかしませんか?あたしとフリーザ先生とならクウラ様を降参させることも出来ると思うんです」
「……成る程。ですが貴方の魂胆は分かっていますよ。何が望みです。こうして私の横に侍るだけでは物足りないと?」
ぐっと掴んだ膨らみに力を籠める。
すると彼女は背中をしならせて顔を顰めた。きつく握られて痛みを覚えたのである。
「うっ、ン……、は、さ、さすがフリーザ先生……。クウラ様を上手く先生の傘下に入れることが成功したら、その尻尾であたしの処女を奪って欲しいんです……」
「言っている意味が良く分かりません」
「ですから、交尾の真似事をその尻尾でして欲しいと言っているんです」
流石のフリーザも言葉を失った。
交尾とは猿の繁殖行為の事か。粘膜を接触させる行為の事か。
何という不躾で不愉快な申し出だろう。
仮にそれを実行したとしてこの雌猿に何の得がある?
実利がないことは大嫌いなフリーザには理解できない。
しかし逆に言うとフリーザは実利があることは好きなのだ。
例えば、彼女の申し出を受けても良いなと思うくらいには。

現物支給

惑星制圧をしていると、時折意味の分からない制度にぶち当たることがある。
それが現物支給というやつだ。
普通に考えて『惑星を制圧した』という事実に対する現物支給という言葉の意味が分からない。
現物支給なのだからその惑星を払い下げてくれるのか?そんなはずはない。
それは思ったよりも惑星に価値がつかず売買用に捕虜を豊富に捕らえた時に発生するイレギュラーである。
山分けする現金に余裕がないので、代わりに捕虜たちを払い下げるというのが所謂『現物支給』というものなのであった。
「現物支給って……捕虜を払い下げるってことか?」
「おっ、そういやラディッツは払い下げ初めてか?自由に使える雌って良いぜぇ。飽きたら売ればいいしな」
「……そんな気軽なモノ……なのか……?」
先に好きなの選べよ!と背中を押されてしまい、並んでいる異星人を一通り眺めてみる。
正直全く興味が湧いてこない。
寧ろ雌など宛がわれても迷惑だ。
どちらかというと神経質で潔癖な傾向のあるラディッツは、他人を部屋に連れ込むことが嫌いである。 無報酬で働くのはもっと嫌いだからとりあえず適当に視線の交わった雌を連れ帰ってみたものの、それが部屋にいるという事実に全く気が休まらない。
そもそも何故こんな異物が部屋のど真ん中にあるのか。
報酬として払い下げられたはずのものが継続的に現金を消耗していくというのはおかしくはないだろうか。
エサは何を与えれば良いのだろうか……。
遠征で溜まってたから楽しみだと言った仲間もいたが、衛生面の観点から異星人となんて安全が確認されるまで絶対に嫌だ。
「……無理だ。早めに換金しちまおう」
押し黙ったままの雌は言葉が通じるかどうかさえ怪しいので、ラディッツは特に何を気にするまでもなくそう口にした。
すると。
「あ、あのう……」
「うわ喋った」
まさかの言語が通じる相手。
「監禁って、閉じ込めるんですか」
「ハァ?……ああ、監禁じゃなくて換金のことだ。金に換えるんだ、お前を」
「ま、待ってください!あたし、お役に立ちますから!!」
「いらねえよ」
「そう言わずううう!!あたし一日に三回だけ瞬時に体力と傷を回復させることが出来るんです!こっそり遠征に連れて行ってください!!あたし、実は姿を変えているだけであの惑星の異星人じゃないんです!!」
言うだけ言うと異星人の姿がフワッと光り、瞬く間に姿を変えた。
その姿はサイヤ人に酷似していたが、髪の色が黒ではなく尻尾は存在しなかった。
「異世界と異空間を股に掛ける魔女の力、是非一度試してみてください」
微笑む彼女がこっそりと発動させた魅了の魔法にラディッツがかかってしまったことを、彼自身含め誰一人気付いたものはいなかった。